2017.07.22 明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ2017
鹿島アントラーズ 2-0 セビージャ(スペイン)
文◎小林康幸(サッカーマガジン編集部)
縮めるどころか広がったかな(大岩監督)
「レアル・マドリードを追い詰めたチーム」
セビージャのベリッソ監督は、試合前日会見で鹿島をこう称した。
昨年12月に、鹿島はクラブワールドカップ決勝でレアル・マドリードと延長戦にもつれる激闘を演じた。その後にスペイン王者となり、さらに2季連続でヨーロッパ王者ともなる世界有数の強豪クラブを、“クラブ世界一”の称号がかかった試合で苦しめたのだ。そんな鹿島の姿は、当時セルタを率いていたベリッソの記憶にも刻まれていた。
しかし、鹿島の大岩剛監督は「レアル・マドリードとあのようなゲームをしたが、決定的な差というものを感じた」と振り返る。そして半年以上が経ち、奇しくもレアル・マドリードと同じ白を基調とするユニフォームをまとったスペイン勢を相手に、再びその差を痛感させられることとなった。
試合前日に「私たちは下がるのではなく、積極的に前線からボールを奪いにいくスタイルでチャレンジしたい」と大岩監督が宣言した通り、ボール支配を高めようとするセビージャに対して、鹿島は前線からボールを追いかけたものの、「前半はボールを動かされてしまって、前線から奪いにいく形はやらせてもらえなかった」(大岩監督)。
「セビージャの強さを、まざまざと見せられた。厳しい見方をすれば、今回は(ヨーロッパの強豪チームとの差を)縮めるどころか、広がっていたのではないかな、と」(大岩監督)。その重たい口調には、勝利の高揚感や安堵感はなかった。
ボランチでフル出場した三竿健斗も、「中盤の3人(ガンソ、バネガ、ピサロ)のポジショニングが素晴らしかった。(Jリーグと比べて)前から奪いにいけない立ち位置だった」と、持ち前のプレスが効かないことを実感していた。
また、右サイドバックの伊東幸敏は、「(セビージャはサイドの選手が)1対1で仕掛けられる状況に持ち込むのがうまい。すごく嫌だった。そんなに難しいことをしているわけじゃないけれど、一歩、二歩の動きだったり、一人ひとりがボールを持っている時間だったり、簡単にプレーすることだったり、チームとしてすごくまとまりがあった」と振り返った。
普段のJリーグの戦いでは味わえない感覚が、鹿島の選手たちを支配したのだろう。いずれにせよ、試合を終えた鹿島の選手たちからは、険しい表情で、次々と“力の差”に言及した言葉が発せられた。
この機会を次につなげる
だが、痛感した差は、新たなモチベーションにもなった。
前日会見で「なかなかない機会なので、この先につなげたい」と話していた三竿は、「練習で今日(セビージャ戦)のことをずっと思い出して、自分に厳しくやれたら」と、決意を新たにする。
FW鈴木優磨の先制点をお膳立てした18歳のFW安部裕葵は、マン・オブ・ザ・マッチに選出されても浮かれた表情はなく、「良かったからといって特に変わることもないし、ひたむきに練習を続けていこうと思う。そして、彼らよりもうまくなりたい」と、さらなる進化を望んでいる。
そんな選手たちに試合後、大岩監督はこう告げたという。
「自分たちがあのレベルにならなければいけない。一人ひとりの判断、パススピード、あとは戦術のレベルもそう。相手の嫌なところをいかに突いていくか、どういうタイミングで突くのか。それを自分たちは経験できたので、日々の練習で質を高めていく。そして、チーム全体でレベルアップする。今の自分たちの意識では縮まらない。サッカーに対する取り組み方をあらためながら、レベルアップしていく意識を持って日々の練習を取り組んでいきたい」
そして、「自分たちの目指すべきものはどこなんだ」という指揮官の問いかけに、選手たちも目標を再認識した。
「僕たちが目指すべきものは、今日の相手であるセビージャのように、ずっとボールを支配して、取られてもすぐに切り替えて、取り返すということ。実際に体験したけれど、走らされてきつかった。それを僕たちがやって、相手を疲れさせて仕留められるようにできたらと思う」(三竿)
「うまいし、速いし、強い。僕たちが目指すべきサッカーは、ここ(セビージャのようなチーム)なのかなと思った」(伊東)
J王者は、この試合でも“常勝軍団”たる結果を収めた。それでもスコアに表れなかったセビージャとの差を、鹿島はチームとして、クラブとして真摯に受け止める。決して、勝利という結果に驕ることはなく――。
この一戦で味わったヨーロッパのレベルは、鹿島をさらなる高みへと導くことだろう。