画像: 第15節の広島戦で決勝点をスコアし、エドゥアルド・ネットの祝福を受ける阿部浩之⑧

第15節の広島戦で決勝点をスコアし、エドゥアルド・ネットの祝福を受ける阿部浩之⑧

2017.06.18 明治安田生命J1リーグ第15節 
川崎フロンターレ 1-0 サンフレッチェ広島

文◎佐藤 景(サッカーマガジン編集部)

左サイドに移って躍動

川崎が広島をホームに迎えた一戦。前半は相手の〝構える守備"にてこずり、シュートを1本も打つことができなかった。川崎らしい「出して動く」プレーが見られるようになったのは後半、1トップに入っていた阿部浩之が左サイドにポジションを移してからだ。試合後、鬼木達監督もその効果を指摘した。

「(阿部は)前半は一番前で仕事をしていましたが、サイドに出てからはより彼の良さが出たかなと思います。サイドに出たらあのようなプレーもできますし、それにプラスして運動量もより生かすことができた」

この試合唯一の得点も、阿部が記録している。ボランチのエドゥアルド・ネットからこの日復帰のエウシーニョにクサビのボールが入ると、そのこぼれ球を足下に収め、眼前を走る中村憲剛をおとりに使って左足を振りぬいた。

「後半にポジションを変えたので、自分はサイドに張って相手を広げようと意識しました。ゴールの場面は、こぼれ球だったので流れ的には良くなかったけど、憲剛さんのランニングがあり、ポストプレーから来たので、結果オーライですけど良い形を作れました。前半はああいう場面で(チームメイトを)使ってばかりでシュートを打てなかったから打とうと。憲剛さんをおとりにしたので、決めないといけなかった(笑)」

上体を右に傾け、左足のアウトフロントでこするようにシュートを放つと、ボールは相手GK林から遠ざかる軌道を描いてゴール左隅に突き刺さった。持ち前の技術の高さを示した一発だが、そこに優れた状況判断とプレー選択があったことも見逃せない。

「とにかく頭がいい選手です」

前任の風間八宏間監督時代から川崎は「出して動く」が攻撃の根幹を成す。ピッチに立つ選手は正確な技術はもちろん、「どこにパスを出して、どこのスペースに動くのか」を考えながらプレーすることが求められる。

誰もが簡単にできるわけではない。中村憲剛が折に触れて話しているように、仲間の特徴を理解し、スムーズに次のプレーに移行できるまでトレーニングを積んでようやく形になるものだ。結局そのベース部分を習得できずに数年でチームを去ることになった選手も過去には存在する。

つまり、川崎のサッカーには選手間の深い相互理解が不可欠ということ。それではなぜ、加入1年目の阿部浩之はその中でさっそく持ち味を発揮できているのか。広島戦の後半から左サイドハーフの阿部とタンデム(縦関係)を形成した左サイドバックの車屋紳太郎に聞いた。

「それは、おそらく頭がいいからです。プレーしていても感じるし、試合中もいろいろアドバイスをしてくれる。こうしようとか。ここを狙おうとか。一緒にプレーするまで、そういうイメージはない選手だったので、その点は意外でしたけど(笑)。とにかく頭がいい選手ですね」

刻々と変わる状況の中で、出し手と受け手のみならず周囲の選手もそれぞれ意図(心・考え)を汲み取って動く。まさに忖度(そんたく)の連鎖があって川崎の即興性に富む攻撃は成り立っている。阿部はその中に身を置き、しっかり機能しているのだ。

画像: 後半開始から左サイドハーフに回った阿部が川崎の攻撃に変化をつけた(Getty images)

後半開始から左サイドハーフに回った阿部が川崎の攻撃に変化をつけた(Getty images)

先ごろ韓国で開催されたU-20ワールドカップで日本の攻撃をけん引し、昨季までガンバ大阪で阿部とともにプレーしていた堂安律は、サッカーマガジン8月号のインタビューの中で、こんなエピソードを明かしている。

「学んだものは大きいです。阿部くんは特別、足が速いわけじゃないのに裏への抜け方がうまいし、守備に戻りながらボールを取る場面も多い。何でああいうプレーができるのか。よくアドバイスをもらっていました」

フィジカルに優れているわけではない。だから別の部分で勝負してきた。阿部にとって、その一つが状況を把握し、動くこと。すなわち、頭をつかってプレーすることなのだろう。川崎でもその才が存分に生かされている。

サッカーマガジン7月号の連載『フットボール新論』ではジュビロ磐田の名波浩監督が試合を決める存在である「一流の曲者(くせもの)がいるチームは強い」と語り、その代表的な選手の一人として阿部の名を挙げた。

仲間にも、他クラブの監督にも一目置かれる存在が、川崎で地歩を固めつつあるのは当然なのかもしれない。8節の清水戦で川崎での初得点を挙げると、10節の新潟戦からは3戦連発。そしてこの広島戦でも決勝ゴール。5得点はチーム内トップの数字だ。目に見える結果もついてきた。    
 
今週末(6月25日・日曜日)は阿部にとって古巣となるガンバ大阪とのアウェーゲーム。見所はいくつもあるが、注目したいのはやはり川崎でその能力を示し始めた背番号8のプレー。オン・ザ・ボールの局面のみならず、オフの局面でも、仲間の意図を忖度し、クレバーに動く姿を確認できるに違いない。


This article is a sponsored article by
''.