リーズ・ユナイテッドに所属する田中碧はシーズン序盤、出場機会が限られ、苦しい時間を過ごしていた。しかし、終盤を迎えて徐々に存在感を増してきた。紆余曲折あった田中の今シーズンここまでの歩みと、現地での評価を取材記者が綴る。

上写真=リーグ戦では難しい時間も過ごしていたが、次第に存在感を高めてきた田中碧(写真◎Getty Images)

1年目はプレミア復帰の立役者

 田中碧は、リーズでも非常に人気が高い。移籍1年目だった昨季は、プレミアリーグ復帰の原動力だった。伝統的に質実剛健なイメージが強い古豪にあって、ファンに「洗練された」とも形容される日本代表MFは、「チャンピオンシップ最高」にとどまらず、「2部にはもったいない」とまで称される活躍だったのだから当然だ。

 人気者である事実は、4月26日のFAカップ準決勝チェルシー戦(0—1)でもうかがえた。キックオフに先立つメンバー発表時には、8万人を超す観衆を集めたウェンブリー・スタジアムの半分を占めたリーズ陣営から、主将のイーサン・アンパドゥにも、主砲のドミニク・カルバート=ルーウィンにも負けない歓声が起こった。

 その2時間ほど前、最寄り駅から会場に向かう途中で、背中に「TANAKA 22」とあるリーズのユニフォームを着た女性に声を掛けると、こう言っていた。

「アオは、一番好きな選手。ハードワーカーでいて、創造力もあるし、貴重なゴールも決めてくれる。この間のスコットランド戦でも、日本の心臓部だったわよね。ウチでも、もっと先発してほしい。今シーズンは、監督にちょっと不満」

 彼女の言う通り、今季の田中はカップ戦が主戦場となった。プレミアでの先発は、34試合消化時点で11試合。平均出場時間は、この日は後半29分までプレーしたFAカップでの約76分に対し、約45分と少ない。

 ダニエル・ファルケ監督は、基本システムが序盤戦での4—3—3でも、以降の3—4—2—1でも、アンパドゥとアントン・シュタッハか、イリア・グルエフとの2枚を中盤中央に好むようになった。第32節マンチェスター・ユナイテッド戦(2—1)から、4試合連続の先発でFAカップ準決勝を迎えた田中だが、その背景にはシュタッハとグルエフの故障もある。

 今季の田中を「スタイル変更の犠牲者」と呼んだのは、やはり試合前に意見を聞かせてくれた男性ファン。30代と思しき彼は、「残留争いに巻き込まれて、ファルケは中盤で守備の強さと固さを優先するようになった。ボールの扱いは、タナカの方がベター。来シーズンも残ってほしいけど、チームの戦い方が大きく変わるとは思えないし、夏に出ていきたがったとしても責めることはできないなあ」と、噂される流失への不安を口にしてもいた。

 純粋な守備力では、CBもこなすアンパドゥはもとより、シュタッハ、グルエフ、そして、もう1人のショーン・ロングスタッフも田中を上回る。プレミア初挑戦の移籍2年目に、序列が5番手に落ちたとも理解できる田中について、やや年配のファンは言っていた。

「アピールを意識し過ぎているように見える。サブで入ってきた試合では特に、そう感じることが多い。必死になり過ぎて、持ち場を離れてスペースを空けたり、持ち過ぎてボールを失ったり、闇雲なプレスバックで簡単にかわされたりしてしまうんじゃないか? 気持ちはわかるにしても」

 ウェンブリーに着いて記者席に向かうと、3つ隣りの席には、リーズの地元紙『ヨークシャー・イブニング・ポスト』で、チーフ・フットボールライターを務めるグレアム・スミス記者が座っていた。そこで、指揮官からの信頼度について意見を訊いてみた。すると、「エモーショナル」という言葉を使い、同じような見方をしていた。

「守備の責任感というよりも、守備を含むゲームマネジメントの問題だろう。かなりエモーショナルなタイプなのか、気持ちが先走っているようなプレーが、チームにとってはミスとなって悪影響を及ぼす試合がいくつかあった」

 確かに、終了間際に同点ゴールを決めていながら、ファルケからお小言をいただいた昨年12月のリバプール戦(3−3)では、自軍が2点ビハインドから追いついた5分後、指揮官曰く「守備ブロック放棄」が、敵の3点目に繫がった。逃げ切り失敗に絡んでしまったのは、その約2カ月半前の第6節ボーンマス戦(2—2)。残り数分で投入された田中だったが、球離れが悪く自陣内でのボールロストを招き、帳消しにせんとして犯したファウルでFKを与え、その最後のひと蹴りから同点とされた。

 ただし、スミス記者はこう続けてもいた。

「失敗から立ち直って、パフォーマンスには改善が見られる。開幕当初には勝てなかったようなデュエルでも勝てるようになった。周りの故障もあって、タナカの重要性は増している。この晴れ舞台でも先発のチャンスをつかんでいるように、良いタイミングで状況が上向いてきたようだ」


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