3月25日の北中米ワールドカップ・アジア最終予選第8節で、日本はサウジアラビアに0-0で引き分けた。昨年6月以来の先発出場を果たした菅原由勢にとっては、ワールドカップ出場を決めた直後のゲームでチャンスを得たが、「一瞬」の数々に悔いを残した90分になった。
上写真=菅原由勢は軽快に右サイドを駆け抜けた(写真◎高野 徹)
■2025年3月25日 北中米W杯・アジア最終予選8節(観衆58,003人@埼玉ス)
日本 0-0 サウジアラビア
「オプション」を増やすための
久保建英が言うには「彼も久しぶりの出場だったと思いますけど、ストロングポイントであるサイドの駆け上がりを披露してくれていい入りだったと思います」。
そんな褒め言葉をもらっても、菅原由勢自身は勝てなかったことに後悔がある。
「それでも勝たなきゃいけないのが日本代表の宿命だと思います」
それでも、というのは、サウジアラビアが守備力全振りで向かってきたことを指す。伝統的に技術とスピードにあふれた攻撃が脅威のアジアの雄が、5バックで低く構え、その前に4人もが並んで網を張って待ち構え、ほとんど攻撃に出てくることさえない。少なくとも勝ち点1は持ち帰ろうとするなりふり構わない姿勢に日本は苦しんだ。
日本は5日前のバーレーン戦から先発メンバーが6人変わり、菅原のほかに、前田大然、鎌田大地、中村敬斗、田中碧、高井幸大がピッチに立った。そこには次のステップへと向かう新しい挑戦の種が蒔かれていた。
「具体的にはあんまり言えないですけど」と菅原は前置きして、説明を続ける。
「ボランチの選手が最終ラインに吸収されずに中盤に残っているときに、僕がちょっと降りて4バック気味にして、そのタイミングでタケ(久保建英)を右に張らせるところはプランとしてありました」
いざ始まってみると、想定をはるかに超えてサウジアラビアが守備に徹してきた。
「ただ、そこまで考える必要もないくらいにサウジが引いて僕たちが押し込めていたし、いい意味でも悪い意味でもボールは持てていました。そこからの怖さはまだまだ出せると思いますけど、4バックになったとしても、こういった配置にはなっていたというか、僕のところにタケが入ったり、タケがやっていた役割を僕がやったりとか、多少の変化はあったと思います」
森保一監督はその狙いを「オプション」とした。
「あらゆる戦いを想定しながら、我々の戦い方、戦術的な幅をよりチームとして持っていかなければいけないというところが今日の結果にも表れたと思います。押し込んだ展開の中で、今日の試合であればどうやって勝っていくかというところ、システム変更なのか、人の変更なのかというところ、相手のどこを突いていくかというようなところを、さらにオプション、選択肢として今後も出るようにしていきたいなと思います」
そんな90分に対して、指揮官は一定の評価を与える。
「まずは継続ということで、選手を変えながらチーム力を上げていこう、選手層を厚くする、という中で、選手たちがよくトライしてくれたと思います。これだけ選手を変えた中で、ギクシャクしたところは前節からなかったというところ、逆に今日はギクシャクしてもおかしくないような戦い方の中で、誰が出ても機能するところを、勝てませんでしたけど、示してくれました」
そうは言っても、2024年6月のワールドカップ2次予選、ミャンマー戦以来の先発となった菅原にとっては、チャンスをもぎ取るための大事な試合だった。
「こういう試合は、例えば何年か前のチャンピオンズリーグでマンチェスター・シティとアトレティコのように、5-5でブロックを敷いてくる相手には、どれだけ質を伴っている選手がいてもこじ開けるのは難しいと思います。その中で数少ないチャンスもあったわけなので、そこをしっかり仕留める質は僕自身ももっと上げなければいけないと強烈に感じました。やっぱりこういう相手には一瞬のスキだとか、一瞬のクオリティーが解決すると思うので。そこは僕自身もまだまだ課題には感じました」
久保が話したように右サイドを外から、あるいは中から、自慢のスプリントを生かして駆け抜けてブロックを壊そうと努めた。ポケットに忍び込む鎌田大地や前田大然へと鋭いパスも送った。だが、その「一瞬」には突き詰める余地がまだまだある。
「自分たちがワールドカップで優勝するためには、今日の試合から見ると個々の質は上げていかなきゃいけないと素直に感じる」
その言葉をあと1年3カ月で、そしてその後も追い求め続けた先にしか答えはない。