上写真=15日のオーストラリア戦でフル出場した田中碧(写真◎兼村竜介)
いつの間にか入り込んでいる持ち味は見られず
ワールドカップ最終(3次)予選の第4戦、日本はホーム埼玉スタジアムでのオーストラリア戦を1-1で引き分けた。4連勝はならなかったが、厳しい戦いのなかでは必ずこういう試合がある。どんなチームも必死であり、ましてこの日はグループ内でサウジアラビアと並んで力のある相手、苦戦も想定内だったはずだが、あり得ないようなオウンゴールを献上して悪い流れに拍車がかかった。しかし、ここから追い付いて引き分けに持ち込んだのは最悪の結果ではない。
もちろん、問題点はいくつもあった。切り替えの早さは変わらなかったが、奪ってもまたすぐに取り返されるシーンが目立った。相手も研究を重ねてくるのだから当然だが、その中で気になったのが田中碧のパフォーマンスだ。
キャプテン遠藤航の体調不良で出番を得てプレーし、彼にとってはポジションを獲得するチャンスでもあった。しかし、90分フル出場したにも関わらず、攻守にわたって無難なプレーに終始した。
開始6分にペナルティーエリア内で受けて相手をかわし、シュートも打てたはずだがフリーの久保建英に渡して久保のシュートは角度がなくサイドネットを揺すった。ここで田中が思い切って右足を振り抜いていれば、試合の流れも自身のプレーも大きく変わっていた可能性もあった。振り返ればこの日の田中を象徴しているシーンだった。これまでなら思い切りよくシュートしていたのではないか。
その後、悪いプレーやミスが目立ったというわけではないものの、次第に存在感が薄れていった。いつもなら90分間動きが落ちない田中だが、終盤には足が止まっていた場面も目に付き、本来の良さを発揮できなかった印象を与えた。重要な試合で起用されては躍動感のあるプレーを見せてきただけに正直、物足りなさが残った。
カタールW杯での「三笘の1ミリ」に走り込んでスペインを沈めたのも田中のランニングだったし、その前回大会への予選でサウジアラビアに敗れる苦しいスタートの後、やはり埼玉スタジアムにオーストラリアを迎えた試合で先制ゴールを決めて流れを変えたのも田中のダイナミックな動きからだった。
しかしながら、ここのところ、はつらつとしたプレーを見ることができず気になっていた。ドイツに渡って2部リーグでのプレーが続き、今季イングランドへの移籍がかなったと思えば、やはり2部のチャンピオンシップで、しかもなかなかスターティングメンバーでは起用されていない現状がある。コンディションやプレーの感覚が鈍ってしまったのではないかと危惧している。昨季までのデュッセルドルフや今季のリーズでのプレーを頻繁に見ることができたわけではないが、何度か映像をチェックした時に、やはり悪くはないものの、特別な存在感を感じるには至らなかった。つまり、この日のオーストラリア戦と似た印象だったのだ。
この試合での問題点の一つにサイドからの攻撃に中で合わせる人数が少なかったことが挙げられる。そこは本来の田中の持ち味を発揮するポイントでもあるだろう。ここのところその役割を担って結果も出していた守田英正が、遠藤の欠場でこの日は深い位置でのプレーが多かった。それだけになおさらだった。いつの間にかそこに入り込んでいる、といったプレーが見たかった。それができる選手だからだ。
本人も試合後に「もう少し前に入って行ってよかった。3-4-3で出るのは初めてだったので、多少様子見の部分もあったけど、自分がボックスの近くでプレーすることでチャンスは作れると思う。そこの回数を増やして必要はあった」と語っていた。
次戦以降のプレーに期待したいが、まずはリーズで本来の躍動感を取り戻してポジションを確保することが重要だろう。日常で本来のプレーを取り戻さないと代表に来てそれを出すのは難しいと思われるからだ。
この日、サウジアラビアはホームでバーレーンにも勝つことができず、躍進が目立っていたインドネシアは全敗だった中国に敗れた。最終予選に簡単な試合は一つもない。
田中碧の運動量を生かしたダイナミックなプレー、躍動感が日本代表には必要だ。
文◎国吉好弘