上写真=真ん中の長身選手がバーレーン代表のユスフ(写真◎Getty Images)
「サッカーではあらゆる可能性がある」(ユスフ)
バーレーン代表のピッツィ監督は、2019年のAFCアジアカップでもラウンド16で日本代表と対戦したことがある。
当時率いていたサウジアラビア代表はポゼッション型に振り切れたチームで、日本代表を相手にボール支配率70%を記録。最終的に0-1で敗れることになるが、のちにファイナリストとなるチームを大いに苦しめた。
しかし、31日に日本代表とアジアカップのラウンド16で対峙するバーレーン代表は、5年前のサウジアラビア代表とは真逆のスタイルで戦ってきている。率直に言えば、ポゼッションに関してはほとんど見どころのないチームだ。
グループステージ第2戦のマレーシア代表戦こそボール支配率66%で相手を上回ったものの、初戦の韓国代表戦は29%、第3戦のヨルダン代表戦は40%と3試合中2試合で相手よりも低い数字を残している。その中で2勝1敗と効率よく勝ち点を積み重ねてきた。
彼らを象徴するのは、カウンター攻撃の鋭さだろう。やや不揃いなディフェンスラインは統率に欠けていても1人ひとりが球際に強く、体を張ってゴール前に立ちはだかる。そして、ボールを奪ってから一気にスピードを上げて相手ゴールに向かっていく際の迫力は、日本代表も大いに警戒せねばならない。
バーレーン代表にとって最も欠かせない選手は、4-2-3-1の頂点に君臨するFWアブドゥラー・ユスフだ。194センチの長身を誇る30歳はバーレーンサッカー史上初めてUEFAチャンピオンズリーグに出場した選手でもあり、誰もが認めるエースストライカーだ。
欧州での実績豊富なユスフはAFC公式サイトのインタビューで「どのチームにとっても簡単な試合はない。誰もがあらゆるチームに対して競争力を発揮できる。日本代表は10試合連続負けなしだったが、イラク代表に敗れた。サッカーではあらゆる可能性があるんだ」と日本代表戦に向けても自信を覗かせていた。
バーレーン代表の全ての選手に、ボールを持って顔を上げる前後に必ず最前線のユスフを見る傾向がある。どれだけいい形で9番にボールを渡せるかがチームの生命線だ。ユスフはロングボール1本で相手の背後にも抜け出すし、最前線で競り合うことも厭わず、ライン間まで降りてポスト役として振る舞うこともある。
周りの選手たちはユスフのアクションに連動して次のプレーに移っていく。特に2列目のMFアリ・マダンとMFカミル・アル・アスワドはバーレーン代表でユスフと共にプレーした経験が豊富で、非常にスムーズな連携を披露する。
右サイドを起点とする7番のマダンは、グループステージ第2戦のマレーシア代表戦で左足のアウトサイドシュートで華麗にゴールを決めた。10番でトップ下のアル・アスワドは同第3戦のヨルダン代表戦でバーレーン代表通算100試合出場を達成。左サイドの8番、モハメド・マルフーンは快足が自慢で、ユスフも含めた前線の4人だけで速攻を完結させられる力を秘める。
日本代表戦ではゴール前のユスフに彼らがクロスを放り込み続けることも考えられるだろう。自陣ゴール前でボール奪取→マルフーン→アリ・マダン→ユスフと、たった3本のパスでヨルダン代表の高いディフェンスラインを破ってゴールを奪った場面を見ていると、ラウンド16で同じようなシチュエーションを狙ってくることも容易に想像がつく。
グループステージ第1戦後のドーピング検査で主力の左サイドバックだったDFハッザ・アリから禁止薬物が検出され、暫定定期な活動停止処分が課されるアクシデントもあった。それでもより重要なユスフら攻撃ユニットが万全なら、バーレーン代表は危険なチームであり続ける。
キャプテンを務めるDFワリード・アル・ハヤムはアジアカップ公式YouTubeチャンネルでもライブ配信された前日記者会見で「我々は何をしなければならないか知っている。イラク代表が優勝候補の日本代表を破り、同じく優勝候補だったイラク代表がヨルダン代表に敗れたのも見た。いいパフォーマンスを発揮できるよう集中して試合に臨みたい。ロッカールームの雰囲気はすごくいいし、我々には経験豊富な選手がたくさんいる。準備はできているので、試合が楽しみだ」と日本代表撃破への意気込みを語った。
今回のアジアカップでは戦前の予想を覆す展開が数多く生まれており、バーレーン代表はそうした試合から勇気をもらっているようだ。ピッツィ監督も「日本代表の弱点を突いて戦う」と不敵な笑みを浮かべる。過去の戦績では10度の対戦で日本代表が8勝、バーレーン代表が2勝と大きな差がついているものの、11度目で何が起こるかはわからない。戦いの火蓋は日本時間31日、20時30分に切って落とされる。
文◎舩木渉