上写真=1トップで先発し、65分に退くまで最前線で躍動した上田綺世(写真◎毛受亮介)
オフサイドになるのは準備不足
衝撃の告白であるーー。
「僕、(相手が)10人になっていたのに気づかなくて、前半は普通に11対11だと思っていました」
苦笑いでそう明かしたのは、日本代表のFW上田綺世だ。15日に『キリンチャレンジカップ2023』のエルサルバドル代表戦に先発出場した24歳のストライカーは、目の前の試合に極限まで集中していたのだろう。
日本代表はコーナーキックから谷口彰悟のゴールが決まり、開始1分で先制に成功。その直後、相手のキックオフから激しくプレッシャーをかけると、敵陣ペナルティエリア内でボールを奪いかけた上田がDFに倒されてPKを獲得する。
すると主審は迷うことなくエルサルバドル代表のDFロナルド・ロドリゲスにレッドカードを提示した。この時、上田はピッチに倒れたままで、相手選手の退場に気づくことができなかった。
「(ハーフタイムに)交代だった(三笘)薫くんに『10人だからどんどんガンガンいって』ということを言われて、『10人なんだ…』と」
相手に退場者が出ていることを知らなかった上田は、自ら獲得したPKを蹴って日本代表初ゴールを記録。「今までも決められるチャンスはいくらでもあったので、もっともっと決めなければいけないというのはありますけど、とりあえずホッとしています」と、A代表15試合目で出た待望の一発に胸を撫で下ろす。
その後も前線で確かな存在感を放ち、44分には日本代表の4点目の起点となった。GK大迫敬介からのロングボールを、相手ディフェンスを背負いながら胸でコントロールし反転。左サイドに走っていた三笘へ展開し、そこから堂安のゴールへつながった。
「薫くんもそうだし、タケ(久保建英)も(堂安)律も突破力があって、ボールを持てる選手が多いので、あそこでただ競るだけじゃなくて、時間を作ってカウンターにつなげるというのはすごく効果的だと思うし、自分にしかできない部分でもあるのかなと」
試合開始直後からエルサルバドル代表が1人少なくなっていたとはいえ、11人を相手にするつもりでプレーし続けた上田はベルギーでの進化を証明するパフォーマンスを披露した。
エルサルバドル戦前日の取材ではこんなことも言っていた。
「(ベルギーでは)言葉も違うし、文化もサッカーも生活も違う中で、自分をどうやって出していくかというところで、自分がどういうプレースタイルで、どういう形で点を取っていくかというのを、僕は1年間ずっと考え続けてきました。
そういう点では動き出しなど、自分の武器は確実に明確になったし、海外で通用するところや、今後自分がどういうプレーヤーとして上にいくかというのも、自分なりに何となく見つけることもできた。それが1つ自信になったかなと思います」
欧州初挑戦だった2022-23シーズンはベルギー1部のセルクル・ブルージュで得点ランキング2位となる22得点を挙げた上田。チームのエースストライカーとしてプレーし、「判断のスピードなども上がっていく中で、引き出しは増えたんじゃないか」と大きな手応えを得た。
そして、本人も実感する成長がようやく日本代表でも結果として表れたのである。だが、エルサルバドル戦では反省もあるという。その反省の内容も、上田らしいこだわりの詰まったものだった。
4点リードで迎えた後半の51分、相手GKにセーブされた堂安のシュートにいち早く反応した上田がこぼれ球に詰めてゴールネットを揺らした。しかし、VARオンリーレビューの末にオフサイドの判定が下されてゴールは認められず。9番を背負った24歳の2点目は幻となった。
オフサイドラインからはみ出していたのは片腕程度。非常に見極めの難しい場面で上田に落ち度はないようにも思うが、ストライカーの道を極めんとする男の感覚は違った。
「オフサイドになるのは準備不足だと思っているので、僕としてはすごく悔しいですね。普段から動き出しはゴールゲッターとしてすごく大事にしているので、オフサイドになってしまうのはちょっとよくないなと。そこは修正したいなと思います」
A代表デビューから4年が経ってようやく初ゴールを挙げた。2024年の北中米ワールドカップに向けて、これからはエース定着への期待がかかる。退場者が出たことに気づかないことも含め、改めてスケールの大きさを感じさせるストライカーである。
「やりたいことを少しずつ出せるようになった。ただ、それ以外のところでも試合の状況に合わせてやらなければいけないことがたくさんあるので、まだまだよくなると思いますし、次につなげていきたいと思っています」
ゴールを量産するだけでなく、チャンスの起点にもなり、守備でもハードワークを怠らない。上田は日本代表に長い間不在だった、万能の絶対的エースストライカーへの大きな一歩を踏み出した。
取材・文◎舩木渉