上写真=谷口彰悟は「ゼロで抑えるのが僕らの仕事」とガーナ戦を見据える(写真◎JMPA江本秀幸)
「そのポジションの差だけで進んでいけます」
ブラジルとのテストマッチで、大きなテーマの一つが奪ったボールをいかにつなぐか、だった。こちらが守って手にしたボールは、相手が必ず即時奪回に来る。強豪国ならなおさらで、ドイツ、スペインと対戦するワールドカップに備えて、ブラジルの圧力をいかにかいくぐるかにトライした。
成功も失敗もあったが、残念だったのはビルドアップに自信を持つ谷口彰悟が試されなかったことではないか。最終ラインは右から長友佑都、板倉滉、吉田麻也、中山雄太と海外クラブ所属か経験者がスタートだった。川崎フロンターレでビルドアップを担うセンターバックとして、国内トップの谷口がどこまでできるのか、テストできなかった。
出場はかなわなかった分、谷口はピッチの外から可能な限りの情報を入手した。
「あれほどのプレッシャーが来る中で、ビルドアップをもっともっと正確にして確実に相手陣地にボールを持っていく作業の回数を増やさないといけないと思います。自分だったらどういうことができるかを見て感じていました」
もちろん、実際にプレーしたわけではないから、可能性を感じることしかできなかった。ただ、持ち味の分析力を生かして、強度の高いハイプレスをかわすためのイメージを頭に残す作業だけは怠らなかった。
「自陣で人数をかけて守る時間が増えるのは、強豪国と対戦するときは仕方がないと思います。割り切ってやることが多くなるので、目指すゴールとの距離は遠くなります。だから、前からプレッシャーをかけたときにできるだけ引っ掛けてショートカウンターを鋭く出せるようになれば、強い国でも脅かせるようになるのではないかと感じました。まだまだ伸ばせていけると思います」
ではそもそも、谷口がしっかりとしたビルドアップで前進しようとするのには、どんな目的があるのか。
「前の選手にどれだけ時間を与えられるかが大事になってきます」
奪った直後に時間も手数もかけずに運び出せば、攻撃自慢の前線の選手たちがプレーに集中できる時間を生み出すことができるというわけだ。
「スピードアップには、準備がまず大方を占めると思います。ポジションを素早く取って、いい状態を作ることができるか。相手の切り替えが遅くなれば、そのポジションの差だけで進んでいけますから」
的確なポジションを取ったら、次は技術。
「そうすれば、1本、2本のパスですぐに相手陣地に進入できるチャンスが生まれます。そのスキは逃したくない。ポジションを取ったあとにはワンタッチで考えていきますし、パスのスピードも高めてかいくぐる、ということができます」
実際に、ブラジルの戦い方にヒントを見た。
「ブラジルのような圧をかけてくる中でも、きちんとした技術やパス一本で局面を打開できると思っています。カゼミーロは遠くにいると思っても2タッチ目には体をぶつけるように近くに寄せてきていました。つぶしのスピードが早かったので、ワンタッチから考えていくのがすごく大事です。そのためには、周りのサポートが必要だし、3人目の動きも共有できれば、あの速さの中でも素早くできると思います」
2タッチでは、もう遅い。カギは「ワンタッチ」にあるというわけだ。
ブラジル戦でそれを実践する機会は与えられなかったが、残り2試合で証明したい。まず、6月10日にはガーナと戦う。
「守備の部分で言ったらラインコントロールの駆け引きや守備範囲の広さが持ち味です。ビルドアップのところも自分の特徴だと思っているので、前につけるパスやスキを突くパスをディフェンスラインからやっていけると相手も苦しいと思います」
サバイバルをかけた谷口の勝負は、ここからだ。