上写真=三笘薫は初代表でも緊張なし。東京オリンピックを戦ったメンバーや川崎F時代のチームメートも多い(写真◎JFA)
「一からというメンタルで」
ワールドカップ最終予選の難局を前に、森保一監督が初めて代表に呼び寄せた選手は2人。川崎フロンターレの旗手怜央、そしてその旗手と川崎Fで同期で、この夏にベルギーに渡った三笘薫である。
独特のリズムを刻むスラロームドリブルは、ユニオン・サンジロワーズの一員としてベルギーの地でも花開いている。特に、10月16日のRFCセラン戦では後半開始早々の47分からピッチに入ると、あっという間にハットトリック。いずれも相手のタイミングを巧みに外してリズムを狂わせる流麗なドリブルと、ぐんぐんと進んで相手を置き去りにする力強い快足で決めたものだった。
「日本でやっていたプレースタイルを継続できているのが良かった点です」
移籍してから間もないにもかかわらず、早々に結果を残している。「結果を出さないと認めてくれないので、最初の頃はもがきながらやっていました」とポーカーフェイスの奥に潜む苦しみがあったことを明かす。
「ベルギーでは外国人選手で、誰かわからない選手が来たわけで、どういうプレーかわかってもらうことが必要だし、監督やコーチ、スタッフにに信頼を得なければならないので、練習から100パーセントを出してやっていました。そういう姿勢を評価してもらいながら少しずつプレー機会を得られたので、スタートの頃の気持ちに戻って、自分の中で一からというメンタルでやっていました」
プロになってから2年もたっていないが、J1と天皇杯を制し、ACLも経験、東京オリンピックにも出場してベルギーへ移籍、と濃密だった。その分、経験値も凝縮されている。
「初めて呼ばれることでうれしい気持ちと、最終予選の厳しい戦いの中での招集なのですごく責任感を感じています」
今回は28人と多めの招集になったために出場するハードルも高くなったが、選ばれたからには「チームの勝利に貢献する」ことが最優先事項。10月のオーストラリア戦では4-3-3システムが採用されたが、今回はその4-3-3を操る川崎Fでプレー経験のある選手が多く選ばれている。三笘もその一人で、左ウイングでプレーするときの威力はJ1で証明してきた。
「フロンターレのサッカーと代表のサッカーはまったく違うと思いますし、選手一人ひとりの特徴や相手もも違うので、別だと考えなければいけない」
まだピッチに立ったことのない代表チームでのプレーについては、余計なことは言えない。「でも」と続ける。
「ポジションのところや立ち位置はあまり変わらないと思います。そのプレーは整理されていますし、より仕掛けることや前への推進力で勢いをもたらすのが役割だと思うので、フロンターレのとき同様に出せればと思っています」
2勝2敗と苦しい状況にあって、まさに、正しい場所に立って優位性を高めて、勢いをつけるプレーをすることが求められている。その部分に理解を深めているメンバー、守田英正、田中碧、谷口彰悟、山根視来、旗手怜央の「川崎F組」や、所属チームで同様のスタイルの下で戦う選手たちと組めば、大きな力になる。
まずは11日のベトナム戦に臨む。出場すれば、デビューだ。
「相手は引いてくると思うので、その前で持てると思います。裏のスペースというよりは、一瞬マークを外してスペースを作ってワンツーで抜けたり、ミドルシュートだったり、そういうプレーを演出したり、それに、サイドからえぐれば引いた相手でも関係ないですから」
5バックが予想される相手がブロックを敷いてくれば、日本が攻めるスペースがない……そんな一般常識(もしくは思い込み)は、三笘には通用しない。ゴール前が詰まっているならば、その手前は空いている、だからそこから崩せばいい、というのは、三笘にとっては当たり前の発想だ。
「手前」を崩すアイディアは、何度も川崎Fで披露してきた。さあ、デビュー戦初ゴールはなるか。