上写真=スウェーデンに敗れ、悔し涙を流す長谷川唯と田中美南(写真◎Getty Images)
必然の1-3。差を埋める武器はなかった
1-3という結果は必然だった。力の差をまざまざと見せつけられた。序盤こそスウェーデンと互角の勝負を演じたが、次第に地力の違いを痛感させられることになった。
パワーの差。スピードの差。それに伴うパススピードやパスレンジの違い。相手のダイナミックなサッカーに後手を踏むことにもなった。もっとも、それは戦前から分かっていたことだ。問題は、その差を凌駕する方策に乏しかったことだろう。
「今日のゲームに関してはやはり力のあるスウェーデンとの一発勝負なので、自分たちの武器で戦おうという部分では良い時間帯が作れたかと思いますけど、スウェーデンが非常にいいチームだったので及びませんでした」
試合後のフラッシュインタビューで高倉麻子監督が口にした「自分たちの武器」という言葉は、パスワークや個々の技術力や組織力を指すのだろう。ただ、前述の差を補うほど、抜きんでた技術力でも組織力でもなかった。細かいつなぎやワンタッチパスを織り交ぜて相手守備網をかい潜るシーンを何度か作ったが、後半になると相手も慣れて日本の武器は武器ではなくなっていた。相手が立ち位置を修正し、日本はらしさを発揮できなくなった。
何より問題だったのは、敵陣における球際の攻防でことごとく劣勢だったことだ。ボールを奪う力の乏しさが、相手を優位に、日本を劣勢にした。指揮官は、メダル獲得という目標達成に足りなかなったものを問われて「なかなか今、(ここで)答えを出すのは難しいですけども、負けたという事実があるので、自分たちの武器以上の何かを持たなければならない」と答えている。現時点では戦える十分な武器がなかったという意味にも受け取れる。
2011年に世界を制した、なでしこジャパンの武器は、技術力や組織力のほかにもあった。その最たるは、戦う姿勢。勝利に対する強い思いが諦めない姿勢を生み、ボールに対する執着心につながった。それが球際の激しい攻防にも表れた。今回は酷暑の中で連戦を戦っており、過去との単純比較はできないが、同じ酷暑の中で舞台に上がったスウェーデンと比べても、戦う姿勢という点で相手に押されていたのは確かだった。負けている状況で受け手が顔を出せず、また出し手が消極的になってボールを下げる状況も問題だった。立ち位置の良い相手のボールホルダーに積極果敢にアタックできないこともあり、後半は互角の勝負ができなくなった。
「女子サッカー自体がすごく速度で進化を遂げている中で、私たちももちろんフィジカル的な要素について日々、選手たちが努力してくれましたし、その部分でもレベルアップはしているんですけども、それ以上に世界の進化というところがある。まだまだ努力しなければいけないと思います」
なでしこが進化する速度よりも世界の進化速度の方が速かった。ただ、そのことは2019年の女子ワールドカップでも痛感したはずだった。決勝トーナメント1回戦でオランダに1-2で敗れ、スコア上は惜敗だったが、大会を通じての内容を見ると、グループステージでイングランドに完敗しており、オランダ戦も内容的に上回ったかと言えばそうではない。事実、競り負けている。
コロナ禍にあり、今大会の準備に関して難しさがあったのは確かだろう。格上との試合が組めず、劣勢の中でいかに戦うかについて、チームとして考える機会が失われた。それでも2019年時点で体感したレベルに追いつき追い越すための取り組みに失敗したことは認めなくてはならない。今大会で、なでしこジャパンは常に苦しい試合を戦うことになった。
高倉監督が武器と信じたものは、残念ながら勝負を決める武器にならなかった。一瞬は優位に立てても、勝利をつかむまでには至らなかった。それは受け止めるべき、現実だろう。
うまいだけで勝てる相手ではない(熊谷)
「選手たちは精いっぱい戦ってくれたと思いますし、やはり世界一のチームを追いかける重圧というのは、並大抵ではなかったと思います。なかなかその闘志が前面に出るチームではなかったかもしれませんが、選手たちは心の中にいつも炎は燃えていましたし、今日も自分たちらしいサッカーをしてくれたんじゃないかなと思います」
指揮官が言う通り、選手たちは精一杯、戦った。もちろん闘志がないわけはない。ただ、メダル獲得を目標に掲げながら、届かなかった。その事実にいかに向き合い、ここからチームをどう強化し、発展させていくか。その点が重要になる。熊谷紗希キャプテンはスウェーデン戦後に、こう語っている。
「厳しい戦いが続いた中でも、チームとしてやれることは試合にぶつけたつもりです。ただ、自分たちがうまくボールを支配できて、相手の嫌なプレーができて、相手にとって日本の攻撃が怖かったかと言われるとそうではなく、これが今の世界との差だと感じます。世界で勝っていくために何をしなければいけないかをもう一度考えるべきだし、うまいだけで勝てる相手ではないと思う。自分たちのウィークポイントをどれだけ戦えるように変えていくかが、これからの日本の女子サッカーの課題だと思います」
長谷川唯も世界との差を痛感していた。
「早い時間の失点は今までも反省を重ねてきましたが、高さでやられてしまった。前半のうちに(点を)返せたことは成長だと思いますが、後半、相手が修正してきた中で、その上をいくプレーができていかった。大会を通じて、イギリスやスウェーデンは、フィジカルがありながらもつないできて、いい位置に立ってポゼッションしてくるチームでした。そうやってヨーロッパのサッカーが変化している中で、日本のようにつなぐサッカーにプラスしてスピードがある相手にどう戦っていくかを考えなければいけないし、理論的に立ち位置なども理解しながら、もっと突き詰めないといけないと思います」
状況に応じたプレー選択や修正力、つまりは戦術理解度という点でも日本と世界の差は広がっている。
日本は2014年U-17女子W杯を制し、2018年のU-20女子W杯でも優勝。アンダー世代で世界一になった経験を、その後にうまくつなげられなかったのかもしれない。今回の東京五輪では、世界のトップに伍していくために、まだまだ足りないものがたくさんあることを知った。2011年に女子ワールドカップを制してから10年という歳月の中で、トップに立っていた日本は世界に追い越され、大きく離されることになった。次回の主要世界大会は、2023年にオーストラリアとニュージーランドで開かれる女子ワールドカップ。2年で世界に追いつき、追い越すことができるか。今回の結果をしっかりと受け止め、議論を尽くし、強化方針を定めて歩み出す必要がある。