上写真=粘り強い守備でボールを奪う田中聡(写真◎高野徹)
■2025年11月1日 ルヴァン杯決勝(観衆:62,466人@国立)
柏 1-3 広島
得点:(柏)細谷真大
(広)荒木隼人、東俊希、ジャーメイン良
もっとやれたらよかったかな
圧倒的な走力は、大一番でも生きた。広島のマンツーマンの守備を成立させた一人と言っていい。柏の攻撃を司る小泉佳穂をしつこい守備で沈黙させた。走行距離は出場選手中、最長の13キロ231メートル。優勝を引き寄せた、影のMVPだろう。
「(優勝は)めちゃくちゃうれしいですけど、なんかあんまり実感ないというか」
前日の取材の中では、「タイトルを獲るために広島に来た」と話していた。2021年に湘南でプロキャリアをスタートさせ、22年8月にベルギーのコルトレイクにレンタル移籍。1シーズンで湘南に戻り、研さんを積み、今季から広島に加入した。ケガで戦列を離れた時期もあったが、スキッベ監督の信頼をつかみ、主軸の一人に成長した。そして迎えた決勝戦。強い思いは、決勝での田中の振る舞いからも見て取れた。
準決勝第2戦の横浜FC戦では顔面を骨折し、脳震盪と診断された。この日はフェースガードを装着してプレーしたが、前半の早い段階で外した。
「やっぱり邪魔だったし、決勝だし。とりあえずタイトル欲しかったので。トレーナーからはちょっと注意というか、怒られてはないですけど、絶対に脱ぐなと言われていた。自分の感覚的にですけど、やっていて、いけそうだと思ったので。ケガもなくてよかった」
ケガを悪化させるリスクを考えたら、ほめられる行為ではないだろう。だが、田中はそれを承知で、自分のベストパフォーマンスを出すべく決断し、圧巻のプレーを披露した。
「ファウルが多くなっちゃったし、取り切れるシーンもあんまりなかった。そこはやっぱりノーファウルで取って、ショートカウンターっていうのが広島の強みだと思うので、そこはもっとやれたら良かったかなと思います」
タイトル獲得は目標に違いなかったが、勝ってなお、向上への意欲を口にした。自身にとっての『初戴冠』を通過点として、田中はさらなる高みを目指す。
