上写真=就任3年目のシーズンに臨む沼津の中山雅史監督(写真◎J.LEAGUE)
今までやってきたことをより良くする

2025シーズンのキックオフパーティー
ーー昨シーズンの結果をどう受け止めていますか?
高島 昨シーズンはスタート時に、チーム得点王だったブラウンノア賢信選手が移籍しました。代わりに齋藤学選手、大友竜輔選手、柳町魁耀選手、中村勇太選手、そして大卒の選手たちが加入しました。レギュラークラスの選手も多く残っていたため、現有戦力を中心に戦う方針でスタートしました。前半戦では着実に勝ち点を積み重ね、夏過ぎまでは良い形で戦うことができました。しかし、残り3節で昇格圏内から脱落し、最終的に10位でシーズンを終えました。前年同様、夏場以降の成績が振るわず、怪我人の影響や対策を講じられた際の対応力不足が終盤戦の失速につながりました。シーズンを通して、19試合が1点差の勝敗となり、そのうち7勝12敗という結果でした。この接戦を制する力が足りなかったことが、今後の課題として浮き彫りになりました。
ーーこれが違った形に転がっていれば、プレーオフ進出の可能性もありました。
高島 前年からは改善できた点も多く、クロスからの得点を増やすこと、失点を減らすこと、セットプレーでの得点力向上には継続して取り組んできました。しかし、最終的な勝利数は2シーズン連続で15勝。引き分けと敗戦の数が入れ替わり、勝ち点は増え、最終順位も13位から10位へと上昇しましたが、やはり1点差の試合をいかに勝ちに結びつけるかが課題でした。J2昇格に向け、接戦を制する勝負強さが必要だと実感したシーズンでした。
ーー1点差を勝ちに引き寄せるのは簡単なことではありませんが、現状からどう積み上げていくイメージですか?
高島 中山監督のサッカーは「超攻守一体」を掲げ、ボール保持時間が長いのが特徴です。ただ、勝てなかった試合では保持率が高くてもシュート数が少ないことが課題でした。攻撃の改善が必要であり、監督やコーチ陣が試行錯誤しながら取り組んでいました。今シーズンは新たなコーチングスタッフの加入や入れ替わりがあり、外部の視点を取り入れつつスタートしました。鈴木秀人ヘッドコーチと共に、これまでのスタイルをより良くするために議論を重ねています。今年は新しい練習も取り入れつつ、変化を加えながらも軸を崩さずに取り組んでいます。その柔軟なアプローチが新鮮であり、チームにとって良い影響を与えると感じています。
ーー今シーズンの補強についての手応えはいかがですか?
高島 今年は磐田からウエベルトン選手、徳島からワデイ選手がレンタル加入し、愛媛の三原選手、FC大阪の山田選手が完全移籍で加わりました。大卒では、インカレ優勝を果たした東洋大の前田・渡井選手、所属リーグでベストイレブンに選ばれた東農大の藤井選手、専修大の一丸選手、さらにユース1期生である井出・川村選手が新たに加わりました。若い選手が増えましたが、日々の練習の質は高く、とても楽しみです。昨シーズン中から強化スタッフは、翌年に向けた編成を慎重に検討してきました。シーズンの折り返しで2位を争っていたため、年末には移籍の声がかかる選手も多いと覚悟していましたが、想定よりも多くの選手が移籍しました。
ーーなるほど。
高島 ただ、ある程度備えて準備してきました。強化スタッフは、抜ける可能性のあるポジションにどんなタイプの選手補強が必要かを監督やコーチ陣と議論し、リストアップしていました。今年の難しさは、12月中旬を過ぎてから移籍が決まった選手が何人かいたことです。確実なオファーが来るのか、来ても残留するのか、移籍するのか。移籍となればリストアップした選手と交渉する必要がありますが、すでに他クラブと契約済みのケースもありました。限られた予算の中で、中山監督の求める「日々の練習の重要性」を踏まえ、選手数を適正に保つことも大切です。そのため、現実の交渉は非常に難しいものでした。それでも、強化スタッフは年末年始も休まずに動き、チームの戦力強化に尽力してくれました。
ーー昨シーズンに加入した大卒選手もチーム内競争を勝ち抜き、出場機会を得ました。
高島 昨シーズン加入の沼田航征選手は試合出場を果たし、宮脇茂夫選手もケガがありながらも出場を重ねました。それを踏まえ、昨シーズン中にはこれまでより多くの有望な大学生に練習参加してもらいました。40名以上の大学4年生がチームに加わり、首位争いをしていたチームの中でどれだけのパフォーマンスを発揮できるかを見極めました。その中から新加入選手を決めました。実際にプレーを見て、チームに合うかどうか、人間性も含めて時間をかけて選定した選手たちなので、大いに期待しています。また、今年はシーズンオフが短かったため、移籍市場もまだ動いており、Jリーグでプレー経験のある選手も新チームの練習に加わっています。我々も引き続き補強の可能性を模索しながら、新チーム始動に向けて準備を進めています。
ーー今シーズン、チームとしてどんなサッカーを目指しますか?
高島 中山監督1年目から「超攻守一体」を掲げ、今年で3年目を迎えます。より細部にこだわって取り組んでいきます。今年チームに残った18選手は、昨シーズンに時間に違いはありますが、出場経験を持つ選手ばかりです。質の高い練習を積み重ねているので今年は昨年以上の活躍を期待しています。現在のクラブ規模で補強テーマは「育成と再生」。実績がありベテランとしてチームの手本となる川又選手、齋藤選手が牽引し、他クラブで出場機会に恵まれなかった選手、新加入選手がクラブで花を咲かせる環境を整えていきます。チームに適した本当の意味でハードワークできる選手たちとともに戦える基盤が整ってきました。
広がるサポーターの輪とともに『感動空間の創造』を目指して

アスルクラロ沼津の高島雄大代表取締役
ーー開幕に向けて楽しみですね。クラブとしての取り組みについてはいかがでしょう。
高島 私がクラブに入ったのは2022年9月からです。クラブの規模は2021年には3億6100万円でしたが、初年度に4億3400万円、2023年度には5億1100万円、今期は5億8500万円となる見込みです。就任当初は「2025年までにJ2クラブにふさわしいクラブとなる」という中期目標を掲げました。
このクラブはアカデミー部門を総合型スポーツクラブとして運営しており、年間で約2億円の規模を持っています。この2社を合計すれば、今年度J2クラブのいくつかと同等の規模になりました。目標達成に向けた道筋が見えてきたという手応えを持っています。
次のステップは、J2昇格後に降格せずに残り続けられる体制づくりです。就任翌年に最も目指していたJ2クラブライセンスを取得できたことは、クラブ全体にとって大きな目標達成となりました。昨年までに強化費を以前の2倍にすることができ、クラブスタッフの増員も実現しました。みんながハードワークして頑張ってくれており、クラブに関わるすべての皆さんに感謝しかありません。
アスルクラロ沼津は、山本浩義さんが創業し、スクール活動を通じて地域との関係を大切にしながら運営してきました。今年で創設35年を迎えます。コロナ禍で経営が苦しくなった時期もありましたが、地域と共にクラブを存続させることが重要だと考えています。ホームタウンは静岡東部全体に広がりつつあり、地域とクラブが一体となることを目指しています。そのためには、まず事業基盤をしっかりと構築することが不可欠です。
ーー昨シーズン最終節では7,162人を動員。歴代3位の集客となりました。サポーターの存在が大きな支えになっていますね。
高島 昨シーズンはサポーターの増加を実感した1年でした。アウェイ戦にも来てくれるサポーターが増えており、昨年のアウェイ北九州戦では天候不良で新幹線が止まるトラブルがありました。それでも前日入りしていたサポーターが太鼓をレンタルし、鍋を鳴り物代わりにして応援を続けてくれました。遅れて到着したサポーターも徐々に増え、試合は勝利こそできませんでしたが、最後の最後に和田選手が同点ゴールを決める劇的な展開となりました。こうしたサポーターの情熱や行動には、本当に頭が下がります。
ーーサポーターの思いが選手を後押しした結果になりましたね。
高島 まさにその通りです。クラブの活動方針として、ホームゲームをクラブの根幹とし、多くのサポーターの皆さんに集まっていただき、「感動空間の創造」を目指しています。昨シーズン終盤には貸出フラッグを用意するなど、小さな取り組みを積み重ねながら、興味を持ってくれる人たちが増えているのを実感しています。昨年末にはサポーターの集まりや、セレステで開催されたサポーターサッカー大会にも参加させていただき、多くの話を聞く機会を得ました。クラブに興味を持っていただいていることが非常にありがたいと感じています。今後は広報活動や情報発信の強化を進めていきます。
ーー今後のクラブの展望について聞かせてください。
高島 私が就任して最初にスタッフと共にまとめたのが「DNA OF AZULCLARO」です。オフィシャルサイトにも掲載していますが、クラブの歴史を知る方々の意見を伺いながら、スタッフ全員で2カ月かけてミッション・ビジョン・バリュー・活動方針を整理しました。
その中で「アスルクラロ沼津のセカンドカーブをみんなで」というテーマを掲げました。2021年のクラブ消滅の危機を乗り越え、皆で再成長していこうという想いが込められたものです。今年はそのテーマを見直したいと思います。この2年半で、セカンドカーブを支える数字的な成長も実現できたと感じています。平均入場者数も2022年の1,684人から、2023年には1,961人、2024年には2,633人と増加。チーム人件費も1億円から2億円に拡大しました。スタッフも手応えを感じており、新たなワードをクラブスタッフと共に考えました。今後は「静岡県東部とともに」というテーマを掲げ、今まで以上に地域全体で盛り上げる取り組みを進めていきます。もうひとつは、サステナビリティへの取り組みです。Jリーグも昨年から地球温暖化やカーボンニュートラルの取り組みを強化しています。我々も自治体やパートナー企業の皆様と連携し、静岡東部地域の課題解決に取り組んでいきます。