上写真=83分、途中出場の姫野誠がGKの頭上を抜くシュートを決め、千葉は同点に追いついた(写真◎福地和男)
途中から入って消極的なプレーはできない
杉山直宏に代わって姫野誠がピッチに登場したのは、3点目を奪われ、千葉がさらに厳しい状況に追い込まれた直後の60分だった。
「思いっきりやってこいという指示だったので、本当に思いっきりやろうって自分でも思っていたので。チームの状況はよくなかったですけど、その中で途中から入って消極的なプレーはできないから積極的に」
その積極性は、登場直後から見られた。62分にボックス左に進入。シュートを放った。大宮のGK加藤有輝に止められたが、姫野のプレーが意気消沈気味だったスタジアムのボルテージを上げたのは間違いない。
果たして千葉は71分にカルリーニョス・ジュニオが反撃の狼煙(のろし)をあげるゴールを奪い、77分にはエドゥアルドのミドルシュートで2点をスコア。あと1点を取れば、同点となり、リーグ戦の順位でまさる千葉がJ1昇格プレーオフ決勝に進むことができる状況になった。
そして83分、姫野が輝く。自陣からのクリアボールを仲間がつなぎ、前線へと届いたボールをうまくトラップして運び、ライン裏へ抜け出すと、相手GKの頭上を抜く浮き球シュート。見事にネットを揺らし、一度は閉ざされた昇格への扉を開いた。
「もちろん狙ったシュートではなかったですけど、入ったんでよかったなと思っています。クラさん(米倉恒貴)が自分のことを見てくれてたんでよかったですし、それをゴールという形でしっかりつなげたので」
千葉は2009年を最後にJ1を戦っていない。それゆえ、2008年生まれの姫野は、物心ついたときからJ2の千葉しか知らない。
「もちろんアカデミーにの時からずっと(チームは)J2で、その試合をずっとスタンドで見ていました。アカデミーのみんながJ1の試合がでやってほしいと思う気持ちは強かったので、それに向けて今日勝利できた。次も勝てるように頑張りたいと思います」
アカデミー出身でこの日がデビュー戦となる選手が何かを起こせば、スタジアムも盛り上がるし、状況が変わるかもしれないーー。小林慶行監督はそんな思いも持って、0−3の状況の中、姫野をピッチに送ったと試合後に明かしていた。「今週の練習で良いパフォーマンスを見せていた」姫野に懸けた、指揮官の思いに応えたわけだ。
カタールで開催された今年のU-17ワールドカップにも出場し、日進月歩で成長する姫野はいきなりその才能を示したが、これはデビュー戦であって、これから始まる物語の始まりに過ぎないのだろう。
姫野のゴールから4分後に河野貴志がゴールを決め、千葉は大逆転に成功した。最高の勝ち方で、次週、決勝戦に臨む。
「このチームは伝統のあるチームなんで、J1にいるべきチームかなと」
スタンドからJ2千葉の戦いを見つめていた少年は今、自らの力で悲願を達成できる立場になった。17年ぶりのJ1へ、次戦も姫野が扉を開くーー。
取材◎佐藤景
