上写真＝三平和司は表彰式で、カップの代わりに自分のアフロヘアの頭を持ち上げようとするパフォーマンスで笑わせた（写真◎小山真司）
■2022年10月16日 天皇杯第102回全日本サッカー選手権決勝（日産ス/37,998人）
甲府 1-1（PK5-4） 広島
得点者：（甲）三平和司
（広）川村拓夢
「笑いを取れたのがもっとうれしい」
練習はウソをつかないが、頂上決戦ではそれ以上のものが表現できた。
26分、ヴァンフォーレ甲府の先制ゴールのシーンは、決めた三平和司が「練習でもあんなにうまくいったことがなかった」と驚いたほどの完成度だった。
左からのCKで長谷川元希が中に入れずに短く後ろに戻し、山田陸がそのまま長谷川に戻した。その内側を荒木翔が絶妙のタイミングで走り抜け、長谷川がていねいにボールを届ける。荒木はしっかり中を確認してゴールラインぎりぎりからマイナスに戻すと、風のように走り込んだ三平が左足でニアでそのまま合わせて、きれいに広島ゴールを破った。
J1で3位をキープする広島の守備陣は強固だったが、「僕はJ1で広島と戦ったけれど、そのときより自分のプレーを出せました。この歳でも成長できると感じて自信がつきます」と確かな実感を覚えながらのプレーだった。三平のシュートはこの1本。それでも千載一遇のチャンスに決めきった。
62分までのプレーとなって、代わった仲間にあとを託したが、85分に同点に追いつかれたときは「正直、しんどかった」と本音を明かす。
「時間が時間なのでしんどかったですけど、後半に入るときに点は取られると思っていたので、追いつかれても大丈夫だから、オレたちならできるからと伝えました」
その通り、PK戦まで戦って、ついに頂点に立った。
表彰式で山本英臣に続いてカップを掲げる際には、低くしゃがみながらカップを地面に置いて隠し、自分の頭を両手で持ち上げるようなパフォーマンス。テレビ中継では中村憲剛さんが「彼ならなにかやってくれると思っていました」と“解説”したが、スタジアムが笑いに包まれて、してやったり。
「僕はそういうキャラなので、優勝もうれしいけど笑いを取れたのがもっとうれしい」
最後まで甲府に関わるすべての人を笑顔にした三平は、真面目な顔に戻って、このチームの成長をしみじみと語る。
「みんな若いのに、僕ですら緊張したけど、すごいなと思いました」
恐れることなく自分の持ち味を発揮した仲間を称えた。Jリーグが始まって以来、J2のクラブが決勝でJ1のクラブを破って優勝したのは、初めてのこと。J1クラブを撃破するジャイアントキリング5連発で、日本一になった。
「J1のチームに5回勝っているので、これが史上最高のジャイキリかどうかわからないですけど、一戦一戦すごくいいゲームをして勝ったので、今日が特別ではないと思います」
特別な勝利ではない。そのことこそが、このクラブの初めての日本一で示すことができた、三平の自信の正体である。
取材◎平澤大輔 写真◎小山真司
