上写真=鈴木孝司がこの日もゴール。攻撃の幅と奥行をもたらすコンビネーションを確認できたという(写真提供◎アルビレックス新潟)
「動き出すというより止まってボールを待つ」
セレッソ大阪から加わったストライカーが、高知キャンプの練習試合3試合で2ゴールを決めた。鈴木孝司がエースに名乗りを上げている。
「去年はなかなか試合に出られなかったので、長い時間、試合に出るのがいまは新鮮で楽しいですけど、正直に言うとまだ少し体はきついところもあります。でもそれはキャンプで求めていることなので、もう少し強度を上げてやっていけば、長いシーズンを戦っていけるのかなと思います」
2020年は14試合の出場で、先発はわずか1試合だった。それ以外はすべて後半途中からの投入。プレータイムはわずかに267分と苦しんだ。だから、しっかりとピッチに立ち続ける喜びをもう一度思い出している。
ゴールシーンについて興味深いのは、「止まる」という自身の解説だ。
「クロスにうまく合わせることができました。相手のディフェンスラインが下がるのが早かったから、逆にそこで、動き出すというより止まってボールを待つという、いいポジショニングができたと思います」
動き回るだけがストライカーの仕事ではない、ということだ。ゴール前で繊細な駆け引きができることを、新潟でも証明した。
「個人的にゴールは取れましたけど、シュートもあの1本だけでしたし、もう少し要求してチームにもっとゴール前の迫力を持っていければ」と物足りなさも明かしたが、このように、高知キャンプはそれぞれのプレーの特徴を理解し合う場。センターバックの舞行龍ジェームズと話したのは、パスの受ける場所についてだという。
「舞行龍はボールを持ってどこにでも出せる選手なので、持っているときにここにいてほしいというすり合わせは練習でも試合でもやっていて、そういったところもゴールにつながったのかなと思います」
「センターバックとボランチのパス交換は結構あって、(ボランチが)落としたときに裏に走ったり、一人でボールを運んでいるときに裏に抜け出したりすると相手もテンポやタイミングを取りやすいんです。だから、ボランチから下げられたボールをダイレクトで裏に送るとか、シャドーの横に相手と逆の動きをしながら下のパスで通すとか、そういうところの向こう(舞行龍)の意思を今日は聞きました」
ボールとともに攻めに出るスタイルを追求する中で、アルベルト監督が常に求めるコンセプトが「幅と奥行き」。センターバックと最前線の感覚が合ってくれば、有効な奥行きを作ることができる。
「後ろが詰まったときに前でポイントができたら逃げ道もできますし、長いボールをキープできたらその分、中盤を省略して前まで行けますから、短いパスだけではなくて長いパスも対応していければ相手も嫌だと思います。自分がポストプレーで落としたら味方が前向きでプレーできるので、そこからスピードアップもできると思います。ただ、もう少し下での短いパスのコンビネーションを増やせれば、ゴールの形やバリエーションが増えるのかなと思います」
後ろで回す分には相手も困らないが、それを一気に恐怖心に変えることができるのが、鈴木のポストプレーだというわけだ。アルベルト監督も昨年から、ボールを短く回すだけがスタイルではないことを強調しているから、ミドルパスの出口として鈴木の存在は非常に重要なエッセンスになりそうだ。
一方で「幅」についても、問題点を可視化する。
「チームとして最初の時間帯はボールを回すテンポが良かったんですけど、前半の中盤から終盤にかけては一人ひとりがボールを持つ時間が長くなったり、パススピードが遅かった分、相手をサイドに寄せていても逆サイドに持っていくまでの時間が長くなって、結局、数的優位を作れなかったりしました」
そのために必要なことも、分かっている。
「もう少し逆サイドを見たり、速いパスや一つ飛ばすパスをもう少し増やしていけば、簡単に崩せるんじゃないかと思います。僕が中に入っていて逆を見るとフリーになっていることがあるので、細かいところでやる選手はみんなうまいですけど、大胆なサイドチェンジも必要になってくるかなと思います」
アルベルト監督が求め続ける幅と奥行きの両方において、これまでこのチームに足りなかったピースは、鈴木が持っていたのだ。