上写真=ここ3試合は出場するだけではなく結果も残している。田邉草民が優勝へのブーストだ(写真◎J.LEAGUE)
「すごく気持ちよくプレーできています」
アビスパ福岡が終盤にチーム力をぐっと高めた理由の一つに、出番の少なかった選手たちの底上げがある。象徴的なのが田邉草民だ。12月2日の第38節ファジアーノ岡山戦で実に10試合ぶりの先発を果たすと、続く6日の第39節ツエーゲン金沢戦は後半から登場、13日の第40節京都サンガFC戦は再び先発出場した。
しかも、この3試合できっちりと結果を残しているのだ。
岡山戦では今季一と言えるほどの美しいゴールに絡んだ。53分、左サイドで重廣卓也から山岸祐也へ縦パス、そこから田邉がポスト役になって山岸を走らせてセンタリング、走り込んでいた重廣にフアンマ・デルガドが優しく落とすと、右足インサイドでゴール右へ送り込んだ。このパーフェクトゴールを生んだ一員になった。
金沢戦では1ゴール1アシストだ。0-2で劣勢の84分、右CKのこぼれ球からエミル・サロモンソンがグラウンダーでマイナスにパス、これを右足で確実に叩いて決めたのが田邉で、その3分後にはロングカウンターからドリブルで突き進む遠野大弥の左側を並走、一度ボールを預かってから遠野にリターンパスを送って、遠野が左足でしっかりとゴールに蹴り込む同点弾をアシストした。
そして、京都戦では自陣で相手パスミスを奪った前寛之から受けると、左サイドをドリブルで持ち出していき、中央でフリーになっていた遠野にていねいにパス、これを遠野がゴールに突き刺した。2試合連続で遠野のゴールを演出してみせた。
「サイドハーフをやり始めてすごく気持ちよくプレーできていますし、周りとの連係も合ってきたと思います。コンディションもいいので調子よくプレーできています」
確かにこのほかにも積極的にボールを触っては攻撃のきっかけになることが増えていて、増山朝陽や福満隆貴といったいわゆるパワー系のサイドハーフとはまた別の、テクニカルなアクセントを加えることに役立っている。
そこで生きているのが、感性だという。
「ボランチをやっているときは新しいことをいろいろ意識しながらやってましたけど、サイドハーフは自由に自分の感覚でプレーしていますね。守備や強度の部分は監督の求めるレベルに合わせることを意識していますが、攻撃面は自分の感覚でやっています」
守備の約束事はきっちり守る。攻撃はセンスで勝負する。その好循環がチーム全体に波及しているのだ。
なかなか出場の機会に恵まれない時期もあったが、そんなときでも意外に淡々。「出られないときも楽しく練習していましたし、いつかチャンスが来ると思っていました。来たときに仕事ができるように、チームの一員としていられるように日々練習していました」と振り返った。そのチャンスが、まさにこのシーズンのクライマックスでやって来たのだ。そして、仕事をしっかり果たしたのだ。
この「楽しく」は残り2試合のキーワードになりそうだ。
「すごくいいプレッシャーがあるし緊張もするし、それを楽しみながら、硬くなっちゃうとダメだと思うので」
肩の力を抜いて、楽しむ。最後に駆けつけたかのようなタイミングでやって来た「感性のサイドハーフ」が、最後に昇格と優勝へ大仕事をやってのける。