上写真=7月5日以来の出場となった東京Vの柴崎貴広(写真◎Getty Images)
■2020年10月21日 J2リーグ第28節(観衆3,160人/@味の素)
東京V 0-0 磐田
常に準備していたから緊張はなかった
7月5日、栃木戦以来の出場だった。今季4試合目。マテウスが負傷したことにより巡ってきたチャンスに、柴崎は並々ならぬ覚悟を持って臨んでいた。
「常に準備していたので緊張とかはなかったですけど、自分が出た3試合はあまり良いプレーができなかったし、チームに貢献できなかった。もしも今日、ミスをしたりチームが負けてしまうようなことがあったら『引退しなきゃな』ぐらいの気持ちで臨んでいました」
トレーニングから常に100パーセントを出し、鍛錬を欠かさなかった。だから自信がないわけではない。それでも次に試合に出場してチームに貢献できなかったら、それがキーパーグローブを外すときなのだと考えていたという。そして3カ月ぶりに巡ってきた出場機会で、柴崎は自身の価値を証明してみせた。集中したプレーで、最後までゴールを割らせなかった。
圧巻は89分のプレーだ。磐田に連続攻撃を許した場面。右からクロスを上げられ、小川航基が頭でつなぎ、ボックス内左にいた松本昌也がワンタッチで落として上原へ。柴崎の眼前、数メートルのところから右足を豪快に振り抜かれた。
だが、東京Vの背番号1は冷静だった。瞬時に体を倒してコースを塞ぎ、鋭いシュートをはじき返す。「よく覚えていない」と本人が振り返ったセーブはしかし、文字通りチームを救う価値あるプレーになった。永井秀樹監督も、称賛を惜しまなかった。
「なかなか出場機会がない中で、常にプロとして100パーセントの準備をしてくれているので(起用に)何の不安もなかったですし、心配もしていなかった。選手のみんなに今日伝えたのは、ヴェルディのため、仲間のために、今日は特に柴崎のためにやってほしいということでした。本人も意識高く、よくやってくれたと思います」
指揮官の言葉を聞いたときの心境を問われた柴崎は、「あまり僕に対して普段、良いことを言うタイプの人ではないので、本当にちゃんとやらなければという気持ちになりましたし、今日に限っては結果を出すことができなかったら、負けるようなことがあったら、本当に辞めようと思っていましたんで、その言葉を受けて余計に気合いが入りました」と話した。
引き締まった東京Vの守備の中心に、38歳のGKがいた。その覚悟がチームに勝ち点をもたらしたのは間違いない。「貢献した」守護神、柴崎貴広の現役生活は、まだまだ続く。
取材◎佐藤 景 写真◎J.LEAGUE