上写真=愛媛戦でゴールを挙げたカイオ・セザールを仲間が祝福(写真◎J.LEAGUE)
文◎北條 聡 写真◎J.LEAGUE
とにかく戦術的な幅が広い
機に臨み、変に応ずる。
強さの秘密は「そこ」かもしれない。群雄割拠のJ2(5節消化時点)で首位に立つV・ファーレン長崎だ。
戦績は4勝1分け。先発の顔ぶれを大きく入れ替えたアウェーのFC琉球戦は1-1のドローに終わったものの、唯一の負け知らず――である。琉球戦は負傷交代が相次ぐ苦しい展開だったが、それでも勝ち点だけは拾っていく。煮ても焼いても食えないチームなのだ。
際立つのは機略縦横の戦いぶりである。
とにかく、戦術的な幅が広い。ポゼッションもカウンター(遅攻と速攻)もあれば、ハイプレスもリトリート(前進守備と後退守備)もある。つまりは、どういう展開になっても自分たちの形を持っているわけだ。
すべてを完璧にこなせる――というわけではない。ただ、どんな局面でも戦える懐の深さは大きな武器だ。先制すればめっぽう強いが、先に失点してがっちり守られると打つ手に乏しい堅守速攻型のような「負けパターン」がほぼないわけである。その好例が3節だろう。
力のあるアビスパ福岡に先制されたが、パスをつないで攻め込み、堅い防壁を破壊して、2-1の逆転勝ち。福岡の「勝ちパターン」を見事崩してみせた。昨季とは違い、ポゼッションから攻め切る力が格段に上がっているからだ。
キーパーソンは秋野央樹である。
バックスの手前でパスワークの基点になる典型的なピボットだ。しかも、その左足から繰り出されるパスは実に多彩。長と短、緩と急、幅と深さを使い分け、攻撃のリズムをつくり出す。戦術上の要。まごうことなきチームの頭脳だ。
この遅攻のインストールに手倉森誠監督の野心が見て取れる。端的に言えば、昇格後のJ1定着だ。堅守速攻のような特化型ではたとえ昇格しても残留は至難の業。前線に独りで点を決めてしまうような破格のアタッカーがいれば話は別だが、そんなチームはJ1でも一握りである。
昨季の後半戦からポゼッションを絡めたゲームモデルへ舵を切ったのも高み(昇格後)を見据えてのことだろう。ただ、ポゼッションを太い幹にして攻守に圧倒しようなどという色気を出さないあたりが、海千山千の手倉森監督らしい。
きれいに勝とうなんて思っていない――と話す筋金入りのリアリスト。戦術もしょせんは勝つための道具に過ぎないのだから、1つの型に特化せず、状況に応じて使い分ければいいというわけである。つかみどころがないだけに、対戦相手にとっては実に戦いにくいチームだろう。