上写真=東京ヴェルディの新GMに就任した梅本氏(写真◎BBM)
≫≫梅本GMに聞く◎前編「ビジネス視点の組織作りが必要だった」
取材◎佐藤 景
ヴェルディらしさの再定義
――梅本GM自身は、この仕事を昨年のうちからスタートさせていたのですか。
梅本GM 10月、11月には新シーズンの編成を始めなければならないので、このオフの編成には関わらせていただいています。とはいえ、初めての仕事なので、竹本さんにも助けていただきながら、永井秀樹監督ともしっかりすり合わせをして、羽生英之社長と話し合いながら進めました。1月からは強化部長として江尻篤彦さんをお迎えしていますので、サッカーや選手の評価の部分は江尻さんにどんどんお任せして、役割分担しながら強い強化部門を作っていきたいと思っています。
――GMとして、これからどんなことを実現していこうと考えていますか。ビジョンがあれば教えてください。
梅本GM 私が思っていることとしては10年後、2030年にFIFAクラブワールドカップ(=CWC)に優勝するチームを作りたい。それはそのときに私がGMにいるとは思っていないです。ただ、10年後に振り返ったときに、今年、2020年が一つのマイルストーンになっていればいいと思っています(※マイルストーン=計画を完遂するために重要な中間目標地点)。そこにたどり着くためには、クラブとして競技面で色々なものが積みあがっていくことが大事です。私の仕事は、その方向性を作ること。例えば、ヴェルディメソッドというものを作りたいと思っています。
――具体的に説明いただけますか。
梅本GM そもそも私たちが何でここに存在しているのか。何をなすべきで、どうあるべきなのか。そういうビジョンとかミッションを明確にした上で、それをサッカーで表現するとどういうことになるのか、ということを明確にしたいと思います。
これができると、自ずと、ヴェルディのサッカーのプレーモデルを定義することができ、そのプレーモデルにおいて必要な選手、そのプレーモデルを落とし込める監督、といった人材の定義ができるのではないかと思っています。こういうものがあると、育成年代からトップチームまで一貫性のあるサッカーを作って、ノウハウや人材が積みあがるのではないかと考えています。
また、短期的には、1年から3年という時間軸の中で、J1に上がることが必須だとも思っています。しかもJ1とJ2を行ったり来たりするのではなく、J1リーグで継続して戦える力を蓄えて昇格することが重要です。組織や仕組みとしての積み上げがある上での昇格が可能になれば、昇格のタイミングで予算規模が増えた分だけ、更にその成長カーブを強めることができるのではないかと思っています。
私自身はこういった仕組みを作り、また、その仕組みづくりや運用をできる組織を作ることでチーム強化に貢献していきたいと考えています。
――ヴェルディメソッドを作り上げるのは、数年かけてということになりますか。
梅本GM いいえ、それは、まず一度作るべきものだと思っています。ただ、常にアップデートし続けられるものだとも思います。現場の監督やコーチと足したり、削ったりしていくものになる。相手に研究されて使えないものになったら、それを上回るものをまた作っていかなければならないでしょう。重要なのは、メソッドとして、自分たちのサッカーを体系化し、言語化すること。共通言語を持つことによってエラーが減るでしょうし、それを前提としたアイディアも出てくると思います。
このクラブではよく、“ヴェルディらしさ”という言葉を使います。それはとても良いことである一方で、ヴェルディらしさという言葉は曖昧性が高くて、人によって微妙に違っていたりする。もしくはヴェルディらしいプレーができる人やクラブのOBでないと、そのニュアンスを理解しきれないこともあったりします。ヴェルディらしさは伝統であり強みである一方、その曖昧性は今後の成長に制限や限界を設けてしまうことにもなりかねない。
ヴェルディメソッドがすべての解決策では絶対にないですが、確度を上げる一つの方法であるのではないかと思っています。抽象的なイメージを文字や絵に落とし込むということで世界に広がっていく力を持つ、というは論語や聖書、武術の虎の巻など、あらゆる世界に存在するものです。すでに今治で岡田さんがそれに取り組まれていますが、ヴェルディのスタイルでそれをやっていきたい、ということを考えています。
J1でタイトル争いする力をつける
――ヴェルディOBという話が出ましたが、新しく江尻さんが強化部長に就任しました。ジェフユナイテッド千葉のイメージが強い方ですが、どういう経緯で就任されたのでしょうか。
梅本GM 私がGMをやらせて頂くにあたり、強化部の達成すべき成果とは、そのために必要な機能とは、その機能を果たすための人材とは、というようなことを私なりに定義させて頂きました。その役割分担の中で、強化部長にトップチームにおける選手の評価であるとか、ピッチ上の現象の評価を専門家にお任せする、ということです。
私自身はプロでのプレーや指導の経験がありませんので、強化部長にプロ経験者を迎え入れたほうがいいという話を、羽生社長としていました。当初、私自身はヴェルディのOBの方がヴェルディらしさを目利きできるのではないかと考えていましたが、ヴェルディらしさを再定義する上では、むしろ外から客観的に見ていた方もいたほうがいいのではないかという考えもありました。
そこで、代表やクラブでプレーや指導の経験豊富な江尻さんに引き受けていただくことになりました。ご自身の監督経験ももちろん、コーチとしても色々な監督と仕事をされているので、監督をサポートしたり評価するというところでも、その経験は大きいです。昨年の年末から一緒にお仕事をさせてやり始めてまだ短い時間ですが、江尻さんに入っていただいたことにより強化部が力強くなったことを実感しています。
育成部門の強化というのはヴェルディにとっての生命線です。その育成部門については引き続き、寺谷(真弓)さんに見てもらい、トップチームで何が起きているのかというのは江尻さんに見てもらうという役割分担になっています。
(※編集部注◎取材後、クラブOBのラモス瑠偉氏がチームダイレクターに就き、浦和レッズ元監督で昨季千葉のヘッドコーチを務めた堀孝史氏がスカウト部長に就任した)
――あらためてお聞きしたいのですが、梅本GMご自身がサッカークラブの経営に携わりたいということで、昨年からヴェルディの社外取締役として仕事に当たられていました。GMはまた立場が変わります。その点については今、どう感じているのですか。
梅本GM 私自身のサッカークラブに携わるモチベーションの出発点は世の中の役に立ちたいという思いにあります。学生時代にサッカーをしていて、それが好きだから好きなことを仕事にしたいということでは必ずしもないんです。世界がもっとワクワク楽しければいいのに、とか、日本や日本人がもっと力強く楽しく暮らせたらいいのに、というようなことを学生生活や留学生活で思うことがあったんです。
そういう意識の中で、どうやったら自分が役に立てるのだろう、自分の価値を発揮できるのだろうということを学生の就職活動の時に考えまして、非常に抽象的な考えではあるのですが、サッカークラブの経営を通じて、そういうことに貢献したいという思いに至りました。多くの人を感動させたり、強いチームを作って世界に日本を発信したり。世界中で百億人規模の人が見るスポーツですからね。
サッカークラブは、人材を輩出する装置です。育成から、もしくはクラブから沢山の日本代表選手を輩出したいと思っています。そういう選手たちが活躍してヴェルディがクラブワールドカップで優勝する。そして、渋谷のスクランブル交差点が緑色の服を着た人たちのハイタッチで溢れる。世界中の街角で緑色のユニフォームを着た子どもたちがサッカーをしている。それがクラブの成功だと思います。
しかし、同時に、クラブが社会の中で担う機能は単にプロサッカー選手を生み出す装置だけではないとも思っています。たとえばプロになれなかった育成選手。もしくはプロキャリアを終えた選手。サッカー選手はいつか現役を引退します。そういったクラブのOBからノーベル賞を取ったり、アカデミー賞を取ったり、NASDAQに上場するような起業家が生まれたり、世界に影響を与えられる多才、異才がどんどん出てくるような、そんな世界一のサッカークラブになれるよう、強化、育成の仕組みづくりを通してクラブの運営に関わっていきたいというのが私の夢です。
――そのための第一歩は2020年から始まるわけですが、GMとして補強を含め、新シーズンを迎える準備について、どう感じていますか。
梅本GM 永井監督がサッカーの素晴らしいマネジメントをしているので、私自身の仕事は監督にどれだけやりやすい環境を作れるかということだと思っています。J1に上がるだけではなく、定着し、タイトルを狙える組織体制を作り、チーム力をつけていく。限られた予算の中で、いきなり理想をすべて実現するのは難しいですが、そのための土台を作れば、きっちり積みあがっていくものだと認識しています。現実的な可能性として新シーズンは、J1昇格にチャレンジできる戦力、コーチングスタッフの体制ができていると思っています。
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●Profile
うめもと・だいすけ◎1977年 東京都生まれ。関西学院大学卒業後、2002年ソニー株式会社入社。株式会社ディー・エヌ・エーを経て経営コンサルタントとして独立。2017年に株式会社アカツキに入社。2019年4月より東京ヴェルディの社外取締役を務める。2020年1月、アカツキを退職し、東京ヴェルディのゼネラルマネージャーに就任。