上写真=アレクサンダー・ショルツ(左)と稲村隼翔。攻守に強力なパートーナーシップを築く(写真◎J.LEAGUE)
「甘さはまだあった」
FC東京が2位に浮上した。開幕戦で退場者を出してFC町田ゼルビアに敗れたが、それ以降は5連勝を含む11戦無敗の8勝3分け1敗。首位の町田に勝ち点27で並び、得失点差も1差にまで迫っている。
特筆すべきはJ1第6節の京都サンガ戦から第12節の水戸ホーリーホック戦まで、7試合連続無失点を続けていること。これはJ1歴代2位タイの記録である。8失点は20チームで最少だ。
ある問いに対する答えが一つだとは限らないのがフットボールというスポーツだから、この記録が続いていることに対する答えもまた一つではない。ただ少なくとも、アレクサンダー・ショルツと稲村隼翔というセンターバックコンビの貢献度がとても高いのは明らかだ。
水戸に6-0で大勝したあと、ショルツは守備への意識について問われてこう話している。
「もし次に1点を取られたとしても、変わることは何もない」
稲村の思いはこうだ。
「攻め切ることは大事ですけど、攻めたあとに戻るのが遅かったり、守備に対してもスタートポジションはあるので、そこに戻る前に間を差されたりというのが何本かあった。そこの甘さはまだあったかなと」
ショルツは仮に点を取られたあとの話をしていて、稲村は点を取られないようにするための話をした。逆のことを言っているようでいて、でも結局は守ることへの向き合い方が一致していることを示しているだろう。
稲村は点を取られないために「やるべきこと」を指摘しているし、ショルツは点を取られたとしても、もうすでに実行している「やるべきこと」を変えなくていいと言っている。つまり、どこかで無失点の記録が途絶えても途絶えなくても、点を取られないためにやるべきことをやるだけなのだということを、それぞれの視点から言葉にしている。
戦術のことはデリケートだから詳しくは語られないが、稲村の言う「戻るべきポジションに戻る」のセオリーとはどんなものだろうか。
攻撃から守備への切り替えの局面では、一度奪われたボールにアタックし直す速くて力強いボールハンティングにスタンドの歓声が上がる。それが肝であることに間違いはないが、稲村が言っているのは、それだけではなくて、ボールにアタックしていない人たちがどこに立つかのルールを遵守しなければならない、ということだ。
ピッチでの選手のアクションを追う限り、それは「扇形」に見える。
もちろんパスの受け手、つまり「人」に付くことは最優先事項だとしても、相手ボールに迫る選手を要とし、その横や後ろに立つ選手たちを扇の形を作るように配置できれば、ボールへのアタックがすり抜けられてもパスコースを限定できる可能性は高まる。例えば最前線の選手がボールにプレッシャーをかけ、サイドハーフが絞って距離を詰め、ボランチがその後ろに構え、サイドバックがサイドハーフのさらに後ろを囲むように立つポジショニングだ。
この表現が適切かどうかは分からないし、あまりに単純化しすぎてもいるだろう。あるいは、誰もが知っている当たり前の基礎戦術なのかもしれない。だがそうだとしても、知っていることと、実際にできることとはまた別の話だ。そして彼らは(稲村の言う「甘さ」はまだ残るとしても)それを現実に遂行している。
どこにボールがあるか、相手がどんな配置になっているか、相手の個々の特徴はどんなものか、などによって、何万通りものバリエーションがあるだろう。それでも、そのどれにも対応できるような基準の立ち位置に選手が戻らなければ機能的な守備は壊れる、という繊細な危機感を持つことを、稲村は自分と仲間に求めている。
「ゲームメーカーがセンターバック」
一方で、ショルツも稲村も「攻撃という名の守備」を地でいくスタイルも備えている。日本代表の森保一監督の言う「いい守備からいい攻撃」ならぬ「いい攻撃からいい守備」である。
ショルツの得意技は、自分で右から持ち運んでチャンスを作ること。ときにウイングのような、またときにはインサイドハーフのような役割を果たし、数々のチャンスを演出している。水戸戦の2点目はまさにそれで、ショルツが運んで右から中に斜めのパスを通すと、長倉幹樹の足をかすめて中央に届き、仲川輝人がダイレクトでフィニッシュして決まった。
稲村は「自分はタイプが違うので」と笑いつつ、「右サイドはそれでうまくいっていますし、左サイドはいまはいい感じでできているので、そこまで求める必要はないかなと思います」とうなずくのは、自信の表れ。
なんと言っても、あの突き立てるような鋭い左足のパスがあるのだ。体を外に開いておきながら中央に差し、あるいは中央を警戒させておいてサイドのスペースに滑り込ませる。いまや誰もが期待するこの二つで相手を惑わす。
高宇洋が稲村を指して言った「ゲームメーカーがセンターバックにいる感じがする」という言葉は、今年のFC東京を彩る名言だろう。
そして水戸戦では「三の矢」であるサイドチェンジも冴えた。32分の先制ゴールのシーンでは、自陣左から一気に右サイド深くの石原広教に届け、そこからのクロスを仲川が完璧なヘッドで送り込んだ。
水戸は、稲村のアルビレックス新潟時代のチームメートでそのスタイルを熟知している谷口海斗と奥村仁をFWに並べ、パスコースに制限をかけようと試みたが、2人のセンターバックの技術と判断が上回った。今後、FC東京と戦うチームがここに何人をかけてどのように規制するのか、そしてショルツと稲村がそれをどのようにかいくぐるのか、その駆け引きを見るのは大きな楽しみだ。
ところで、水戸戦ではどれだけリードを広げてもFC東京は攻め続けた。例えば、3-0あたりで安全にゲームをクローズさせるマネジメントもあるかもしれないが、そうしなかった理由は、稲村の言葉にあった。
「取らなきゃいけない、というメンタルよりは、単純に攻め手を緩めないというのがチームのコンセプトとしてあって、みんながそれに取り組んでいるということ」
初先発の仲川が今季初を含む2ゴール、安斎颯馬が続き、ショルツも今季2点目をマークした。交代で入ったダニ・ゴメスとマルセロ・ヒアンも決めた。
その最後のゴールシーン。
アディショナルタイムに稲村が自陣で相手パスをインターセプトして、そのまま猛然とドリブルでペナルティーエリア近くまで進んだ(まるでショルツのように!)。シュートレンジに入ったと思ったところで右の山田楓喜に預け、そのクロスをマルセロ・ヒアンがヘッドでゴール左に決めている。
稲村は、山田に預けたあとも足を止めずにマルセロ・ヒアンの背中側、ファーサイドに走った。ラストパスを待ち受けるためだ。
「楓喜はシュートも持っていますし、ファーに走ったのでアシストしてくれという思いもあって、自分のエゴも出しながらでしたね」
5点リードでアディショナルタイム。センターバックが持ち場を離れて攻め抜いてもリスクは少なかった。「ちょっとショルツが点を取り始めたので、話が変わってきたなと」とゴール欲の芽生えを笑いに変えたが、すぐに目の力を強めて真剣に言った。
「自分自身も点を取れないとセンターバックとしてはダメだと思うので、そこを求めていきたい」
守って攻めて点も取る。そのどれもあきらめないセンターバックコンビが、FC東京とJリーグの魅力を広げていく。
