上写真=稲村隼翔がエリソンに自由を与えない。相手の弱点を突く戦略のキーマンになった(写真◎J.LEAGUE)
■2026年2月21日 J1百年構想リーグ第3節(観衆:22,672人@U等々力)
川崎F 1-2 FC東京
得点:(川)山原怜音
(F)マルセロ・ヒアン、室屋 成
「もっと走らせようかな」
長友佑都がうなずきながら実感を込める。
「僕も彼を引き出しているかもしれないけれど、彼も僕を引き出してくれる。まだまだ良くなりますよ」
彼、とは、稲村隼翔のことである。
アルビレックス新潟からスコットランドの名門セルティックに移籍しながら出番に恵まれず、日本に戻ってFC東京の一員になった。そしていまや、欠くことのできない存在になっている。
「もう毎日、佑都さんから『こういうボールをくれよ』っていう話をしてくれていますし、自分も『そこに立ってくれ』って話しています。佑都さん、今日はまだまだ走り足りなかったと思うので、もっと走らせようかなと」
左サイドのコンビネーションは、そんな冗談も飛び出すほど充実している。
松橋力蔵監督もこの左のユニットを高く評価する。
「ディフェンスラインでの左右のサイドバックの立ち位置、センターバックとのつながり、そこからボランチ、トップ、シャドーの選手が全体で一つになって動くことによって、1つ先、2つ先ぐらいまでのバランスのいいタイミング、動きがすごく多かったと思っています。特にそういうことが色濃く出ているのは、左サイドではあるなと思っています」
稲村は謙遜のほうが先に立つ。
「自分が特別、何かをしているかと言われればそうではないと思いますし、レベルの高い選手たちと一緒にできて自分も引き出してもらってるし、逆に自分も引き出せてるとは思うので、すごくいい関係かなと思います」
対角にも強く鋭いサイドチェンジのパスを出せて、縦にも差し込める。左前にグラウンダーで鋭角に滑らせるパスも効果的で、さらにはパスコースを消されてもロブ軌道で相手の頭上から落とすサイドへのパスも見せる。2センターバックの左に左利きの選手が入るだけで、こうも組み立てに安定感と幅と深みが出てくるのだ。
この試合で一つ、施した工夫は、相手の最初の守備ラインを破る場所をどこに設定するか。
川崎Fは守備で構えるときにエリソンと脇坂泰斗が横並びでコースを限定し、その後ろに4枚並ぶ。FC東京から見ると主に、稲村の前にはエリソンが立ち、その外側で長友佑都の周辺を家長昭博がケアする配置になるのだが、守備が得意とは言えないエリソンの周辺から穴を開けていく作業が何度も見られた。どこまで意図的だったのかを聞いてみると…。
「エリソン選手と家長選手は攻撃に特徴のある選手です。だから(ビルドアップでは)そこをどんどん突いていこうということはチームからも話があったので、そこは自分、佑都さん、(遠藤)渓太くん、(常盤)亨太でうまく回せたかなと思います」
決勝点となった38分の室屋成のゴールも、稲村のパスがスタートだ。エリソンがポジションに戻らなかったからまんまとフリーになっていた常盤に渡し、そこからの縦パスをマルセロ・ヒアンが右に展開、佐藤恵允が運んで、最後は室屋がフィニッシュ、という流れだった。分析に基づくチーム戦略の成功である。
一方で、稲村は常に守備の課題と向き合っている。この日はスーパーサブとして登場した紺野和也の突破にヒヤリとさせられた場面もあったが、稲村が鋭いスライディングをヒットさせるなど、しぶとく対応して切り抜けた。
「今日はそういう面が出たからよかったですけど、開幕戦、2節とそういう場面はあまりなかったと思うし、押し込まれた中で存在感がちょっと失せてたかな、というのが自分の印象。そこでリーダーシップを取って、守備で押し込まれた時間帯でも存在感が出せるようになってくればまた変わってくるかなと」
そうやって、まだまだ良くなると言った長友の「予言」を的中させなければならない。
