8月9日の明治安田J1リーグ第25節で、アビスパ福岡が歴史的な勝利を手にした。川崎フロンターレの敵地で勝ったのは、実に25年ぶり。その主役となったのは、名古新太郎だ。2ゴール2アシストでヒーローになった。

上写真=73分に名古新太郎が決めた逆転PK。見事にGK山口瑠伊の逆を突いた(写真◎J.LEAGUE)

■2025年8月9日 J1第25節(観衆:22,062人@U等々力)
川崎F 2-5 福岡
得点:(川)橘田健人、エリソン
   (福)名古新太郎2、上島拓巳、碓井聖生、紺野和也

「やられたので、やり返します」

 川崎フロンターレを相手に敵地で25年ぶりの勝利。アビスパ福岡にとって意味深い白星の立役者は、移籍後初ゴールを含む2ゴール2アシストを挙げた名古新太郎で間違いない。

「歯がゆい思いがずっとありました。遅すぎたゴールでしたけど、勝利という形で終われてよかったかな」

 初ゴールへの思いも、歴史的勝利の重みも、振り返る表情は浮かれることなく淡々と、だった。

 川崎Fに2人の退場者が出た影響はもちろん大きかったが、そこで無駄な余裕を見せることなどなく、実直に戦った。それが、自身の2ゴール2アシストにつながっただろう。

 移籍後初ゴールとなる24分の同点ゴールは、FKから。左から右足でニアを狙うと、川崎Fのエリソンがヘッドでクリアしたボールが飛び込んだ。だが、そこに味方は誰もいなかった。ミスキック?

 いや、そうではない。

「あそこに立つポジションはすごく難しいんですよ、ボールの処理が。だから、自分としては狙い通りでした」

 つまり、最初からエリソンに「決めさせる」狙いで蹴って、実現させたのだ。高難度も高難度のキックだった。

 29分に失点するが、36分には再び追いついてみせる。今度はアシストだ。左CKをニアに蹴り込み、走ってきた上島拓巳にピンポイントで届けた。ヘディングシュートが再びエリソンに当たってゴールへ。

「特にコーナーは狙っていましたし、うまく拓巳が合わせてくれました。でも、もっともっとキックの質を高めていかないと」

 それが謙遜にも聞こえるように、このあとの2つのゴールシーンでもキックの質の高さは十分に証明している。73分に決めた逆転ゴールは右足でゴール左に蹴り込む鋭いPK。GK山口瑠伊の逆を突く冷静さと技術が光った。

 そして85分のアシストは、まさにキックの繊細さを示している。

 左で受けて顔を上げると、ペナルティーエリアの真ん中にぽっかり穴が空き、そこに碓井聖生の姿を見つけた。

「自分たちが揺さぶっていく中で、聖生には真ん中に留まってくれと言っていました。自分がシュートモーションに入ったときに相手がちょっと下がったのが見えたので、足元に入れました」

 一瞬で状況を把握して選択を変えた判断と、碓井の足元にぴたりとつけるスピードのあるパスを選んだセンスは絶品だった。

 それを、走りに走る中で実行したタフさにも舌を巻く。

 天皇杯ラウンド16の鹿島アントラーズ戦から中2日。名古はその試合で後半から出場し、延長戦まで戦い抜いていた。そして、川崎F戦はフル出場。11.276キロの走行距離は、この日にピッチに立ったすべての選手で最も長い。よく走った。

「中2日でしたけど、ピッチに立てばそれは関係ない。出た選手がしっかり責任を果たす意味でも、みんながタフに戦った結果が出たと思います」

 川崎Fは2人少ないながらも粘ったが、名古は彼らの勝利への希望を断つようにして走って走って走った。

「単純に人数が少ない状況で相手に走られるのは一番嫌なことですしね。そこで自分たちがサボってしまうと相手は楽になる。きついのは相手であって、心理戦の部分もあると思いますし、そういったところでも上回らなければいけないなと」

 これで7試合負けなしとしたが、そのうち4試合は引き分けだ。勝ちきれないもどかしさも、走り抜いて手にした5ゴールの大勝で振り切れるかもしれない。

「でも、まだまだ自分としては足りないですし、まずはチームが勝つためにやるのが自分のスタイルなので」

 その存在感をたっぷりと披露した90分を、1週間後のゲームにつなげたい。相手は鹿島。天皇杯で延長戦の末に敗れた相手である。場所も同じく敵地のメルカリスタジアム。

「天皇杯ではやられたので、やり返します」

 古巣を相手に、2度も続けて負けるつもりはない。


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