上写真=闘病を表明した名倉巧(長崎)を応援するユニフォームを掲げ、埼玉スタジアムに駆けつけたサポーターとともに(写真◎J.LEAGUE)
■2025年7月27日 J1第23節(観衆:33,850人@埼スタ)
浦和 0-0 福岡

「意図的にたくさん」
「勝ちきれるチャンスはあったという印象と、よく引き分けたという印象と、でもやっぱり勝ち切りたかったなと」
アビスパ福岡の金明輝監督がそんな正直な言葉で振り返るのも無理はない。浦和レッズに対して何度もチャンスを作りながらわずかに及ばず、でも反撃もきっちり抑えて0-0。埼玉スタジアムでのアウェーで勝ち点1という「お土産」は悪くはないが、でも悔しかった。
何より「決定機を意図的にたくさん作ることができた」からこそ、ノーゴールだったことに反省の多くを置く。
35分、碓井聖生が抜け出してGK西川周作と1対1になりながら右に外してしまったシーンがある。相手のゴールキックを上島拓巳がヘッドで跳ね返したボールに対して相手が処理を誤って入れ替わったから、これは「意図的」とまでは言えないかもしれない。ただ、浦和の守備ラインの裏を迷わず突いていく狙いは体現できていた。
41分に名古新太郎が、42分に紺野がともに左から際どいシュートを放ったあとの、44分の連係が真骨頂だった。
重見柾斗が小さくていねいなスルーパスで左サイドを割って、そこに潜り込んだ安藤智哉が絶妙なグラウンダーのセンタリングを通した。湯澤聖人がニアに突っ込んだものの打ちきれずに逸したが、左サイドで回しながらボランチの重見が絡んで裏に通し、そこに入ってきたのが3バックの左の安藤で、逆サイドのウイングバック、湯澤が迷いなくニアにトップスピードで入ってきた大胆なコンビネーションは、この試合の最高の楽しみだった。
65分にはまたも左サイドを崩した。安藤が縦の前嶋洋太に一度渡し、そのまま中にもぐってリターンパスを受けて深くまで進入、マイナスへ折り返すと、紺野を経由して重見がミドルシュートを狙った。
いずれもゴールを奪えなかったから「成功」ではないのかもしれないが、埼玉スタジアムで、浦和を相手に、偶然性に頼らずに攻め続けたことは評価に値する。
ローテーション
この通り、再現性が高かったのは両サイドの崩しだ。3-4-2-1の立ち位置で、右はウイングバックに湯澤聖人が、シャドーに紺野和也が配置された。
紺野は「どうやってアタッキングサードに入っていくかがちょっと難しかった」としたが、その手前で見せた工夫がチームに安定をもたらしていた。
「もっとボールを触りたかったですけど、そのために下がるのではなくて前にとどまることで相手のボランチの選手がマークしに来ていて、それで後ろが安定したと思うので、あとはその使い分けですね」
4-4-2のフォーメーションの浦和に対し、福岡のシャドーが浦和のセンターバックとボランチに捕まらないような場所に浮遊することで、ボランチの視線を引き付けておく。そうすればボランチが前に出て行けなくなって、こちらのボランチや3バックが余裕を持ってボールを動かせる、という算段だ。
右サイドでコンビを組んだ湯澤は5試合ぶりの先発だったから「久々だったのでコンディションがまだまだで」と話したが、右のワイドの高い位置で受けることで浦和の左サイドバックの長沼洋一を深く押し込むことができた。
それでも、攻め筋が複数あった試合だからこそ、自分自身に矢印を向ける。
「僕がもう一つ前に行けたら、コンちゃん(紺野)がさらに前でプレーできると思う。試合後にコンちゃんには、本当はもう一つ行けたでしょ、って言われました。相手と対峙したときにはがしに行けば、その過程でマークがズレてくるのに、そこまで行けなくて」
上記の通り、左サイドでのチャンスも多かった。こちらはウイングバックが岩崎悠人で、シャドーが名古新太郎。さらには3バックの左の安藤智哉も果敢に裏を突きに出てきた。
岩崎はウイングバックとシャドーの関係に大きな手応えを感じていた。ローテーションのメカニズムが安定してきたのだ。
「チームとして、ボランチが自由にというかやりやすいように動いて、そこを見てシャドーやウイングバックがローテーションしていくところで、周りを見てプレーできていました。個人的にはもう少し背後へのボールがほしかったけれど、チームとしてはすごい良かったんじゃないかな」
ボランチを絡めながらウイングバックとシャドーが前に後ろに、中に外にと入れ替わっていく変幻自在。
「例えばボランチが落ちると、センターバックが開いて高く入っていきます。その瞬間に空いたスペースにシャドーが落ちて、ウイングバックがそのポジションに入る、というイメージですね。ほかにもいろんなローテーションがあってもよくて、固定概念にとらわれずにやっていきたいですね」
44分や65分のシーンは、まさにその象徴的なコンビネーションだった。
8月の熱いバトル
岩崎が言う「やりやすいようにプレーするボランチ」の一人である松岡大起からは、この日のチームのアクションはどう見えていただろう。
「準備してきたことをやろうとして、ピッチの中で一人ひとりが自信を持って体現することができていました。それでチャンスもあったから勝ち切りたかったと、みんなが同じように感じていると思います」
岩崎と同じように、勝ち切るだけの力を見せることができた感触があった。実際、松岡からも長短の効果的なパスが何度も飛び出している。
「一人ひとりの距離感をしっかり意識していて、準備も早くできている。だから自分も、いい形でボールを前に供給することはできていました」
岩崎が説明したように、スムーズなローテーションができたことで、松岡にも勝負のパスを送ることができた実感がある。それが「狙い通り」だったことが、さらに価値を高める。
「浦和さんはサイドの選手の強度が高くて、前にぐっと来る守備が多い。それはミーティングでも出ましたし、個人的に考えていたところでもありました。それに、うちのサイドはスピードがあって縦に強い選手なので、そこは使っていこうと」
ただ、サイドアタックで浦和を翻弄したその分だけ、松岡が歯がゆく感じたのが「中」のことだ。サイドを崩すのと同じように、中央にも差し込みたかった。ここが次への課題だ。
「サイドの選手の縦への矢印の強さというのは、アビスパの特徴だと思うんです。どの選手でもそれができる。あとはタイミングよく中への縦パスを通していければ、もっともっといい形でゴール前まで行くんじゃないかと思います。そこは積み上げてやっていかないと」
これで6試合負けなしとベースは整った。2勝4分けとドローが多いのは気になるものの、さらに順位を上げていくために、「真夏のバトル」を乗り越えていく覚悟だ。天皇杯ラウンド16で鹿島アントラーズと戦ったあと、川崎フロンターレ、鹿島、清水エスパルス、柏レイソルと、難敵続きの8月が待っている。
「前期で負けている相手に対してどれだけやっていけるか。日々積み上げて、これまで以上にやっていけるかどうか。そこが大事だと思います」
松岡の目線は高い。自分たちが本当に成長しているかどうかを試すのに、最高の「基準」が8月に揃ったというわけだ。
「どういう相手にも自分たちがやりたいことにチャレンジできるというところは、今日もすごく良かったと思うので、自信にしていいんじゃないかな」
自信がにじみ出る爽やかな笑みを浮かべて、岩崎もきっぱりと言いきった。
福岡の8月は熱くなりそうだ。
