上写真=「時間を大事にしながらバリエーションを増やしていければ」と語った喜田(写真◎舩木渉)
自分たちをより深く理解することが重要
「いい勉強になりました」
大分トリニータとの練習試合を終えたスティーブ・ホーランド監督の一言目は謙虚だった。30分×3本の変則方式で行われた横浜F・マリノスの監督に就任後初の対外試合は、0-1の敗戦となった。
最初からうまくいくわけがない。指揮官自身も選手たちも、新たに取り組んでいるシステムや戦術が完璧に機能する可能性は低いと理解したうえで臨んだ試合だったため、噴出した課題すらも収穫と捉えている。
ホーランド監督は「プレシーズンでは肉体的な準備を整えるだけでなく、より高いレベルの相手と対戦することで自分たちをより深く理解することが重要。それは一般的なことだと思います」と語り、今後に向けて楽観的な見方を示した。
マリノスは今季から3-4-3を基本システムに戦っていくために練習を重ねている。宮崎キャンプでも攻撃のスイッチやビルドアップ時のポジショニング、プレッシングのかけ方などを細かく落とし込んでいるところだ。
しかし、実戦ですぐに機能するまでには至っていない。大分戦ではホーランド監督が「No.10」と呼ぶ2人のトップ下や1トップまで安定してボールを届けられず、自陣からのビルドアップの段階でミスを連発。攻撃が停滞すると、たびたび大分のカウンターを食らってピンチを迎えた。正直なところ、0-1というスコアは相手のフィニッシュ精度の低さに助けられた印象が強い。
ディフェンスラインとGKやボランチが関わるボール回しで相手のプレスを引きつけられても、ビルドアップの出口となる両ウィングバックが孤立してしまう。トップ下の選手が降りてきてボールを引き取っても、前を向いたところでサポートが少なく次の選択肢が少ない。
こうした手詰まり感が生まれた大きな要因は、相手のシステムにあった。大分も同じ3バックだったためミラーゲームになったが、マリノスはそもそも相手が3バックであることを想定した戦術練習を積んできていなかったのである。
ただ、マンツーマン気味にハメられた時に全てが停滞してしまう経験をしたことで、次のステップで何をすべきか整理できた。柱となる戦い方を持ちながら、それを相手の出方によってどう応用していくか。基本の落とし込みによって手札の枚数を増やしつつ、持っている手札の組み合わせや出す順番によってバリエーションの幅を広げていく作業を開幕までにどれだけ進められるかが重要になる。
周囲とつながったPK獲得シーン
実際、大分戦の中だけでも進展はあった。2本目や3本目は中盤の選手が相手の背後へ抜け出すランニングや距離を近くしての連携プレーを増やすと、攻撃が活性化。3本目には喜田拓也が果敢な飛び出しからPKを獲得した。
その喜田は「トライできたこと、またはもっと詰めないといけないところは当然あった。それはチャレンジしたからこそなので、そういった意味ではいいゲームだったと思います」と前向きに語った。
「周りとの関係性を僕は大事にしていたので、PK獲得のシーンは周りとうまくつながれた。ただ走ればいいというものではないし、相手の食いつき方などを見てイメージを共有できていたので、いい形が出ました。その回数が増えれば増えるほど次の手も出しやすくなるので、それが次のフェーズになっていくかなと。まずは画やタイミングの共有が大事になるかなと思います」
「よく『責任を持ってプレーする』とか、『チームのためにプレーする』とか言いますけど、その意味は何なのかというと、覚悟を持って、責任を持って、変えることや決断することを1人ひとりがやることなんです。ピッチに立っている選手だけじゃなくて、チーム全員がそういう意識を持てるかで変わっていくと思います。
(相手が)準備したものと違ったらピッチ内で対応しなきゃいけないし、そこの引き出しみたいなものは増やしていきたい。ただ、最初だからといってそんなに時間もないので、しっかりと詰められるだけ詰めたいです。3バック、4バック、つないでくる、蹴ってくる、いろいろなチームがあるので、今はトライして成功体験やエラーを繰り返しながら進んでいる段階ではあるので、しっかりと時間を大事にしながらバリエーションを増やしていければなと思います」
宮崎キャンプ中には練習試合があと2つ予定されている。だからこそ大分戦でうまくいかなかったことを悲観せず、ホーランド監督や喜田を中心として確実に前に進んでいくことが重要だ。新体制が発足してすぐに何もかもうまくいくほどサッカーは簡単なスポーツではない。
文・写真◎舩木渉