上写真=松橋力蔵監督は選手に自らの強みをしっかり理解して発揮することを求めていく(写真◎サッカーマガジン)
判断がしっかり伴ったテクニック
「君は何者なのだ」
FC東京の新指揮官、松橋力蔵監督は選手に常にこう問いかけているのだと明かす。サッカーに向き合う思考の根本を表現した一言と言えるだろう。
「僕が常々、選手に言うことは、君は何者なんだ、ということなんです。それぞれが持っている特徴であり強みというものをしっかりと前面に出していくことが、非常に大事なことだと思っていますから。もちろん、できないことをやらなくてはいけないということも当然ある中でも、やっぱりまずは自分の良さをしっかり自分で理解しながら、チームに還元してほしい。 そこを強く求めたいと思っています」
1月11日、初めての練習が小平グラウンドで行われた。選手たちが自分は何者であるかを示す、最初の一歩だ。その冒頭、30分ほどをかけて松橋監督はミーティングで訴えかけた。
「今日はどういうサッカーをしていくかということよりも、本当に平たくシンプルに、いくつかのワードを使って話した、という感じですね。もちろんみんな、最初は構えていますし、僕も構えていました。やっぱり緊張感はありますし、まだまだ私がどんな人かも分かっていないと思いますし。私の方でいろいろ考えて、今日は映像ではなくてまず言語化というか、言葉で伝えました」
トレーニングでは、初日だから強度は高くはないものの、ボールとともに進めるメニューが目を引いた。最初に選手の喜びと戸惑いの両方の声が響き渡ったのは、「ボールを2つ使い、ワンタッチ制限のある、4対1のロンド(ボール回し)」だった。
四角形の頂点に立つ4人のうち一人の選手の足元に同じタイミングでボールが2つ届いてしまっては、プレーができない。それを避けながら、中央に入った守備役の選手に奪われないようにするためには、多くの工夫が必要になる。
「常にボール動かす!」
「判断ミスをしないように!」
「パスに強弱をつけて!」
「足元だけではなくコースも使って、コースにゆっくりのボールも使おう!」
「距離を変えて!」
「判断!」
「近づいていいんだよ!」
「ジャッジ!」
松橋監督からはそんなヒントが響いた。
「すごくよくやってくれてるな、という印象ですよ」
とは、彼らのアクションを見守った松橋監督の所感。
「どうしても初めてのことだから、うまくいかないと思考が止まってしまったりするグループもありました。そこは続けながらですよね。ただ楽しくやるだけじゃなくて、ちゃんとエッセンスが入っていて、寄ったり離れたり、とか、パスの強弱、あるいは必要に応じて利用するジャッジやスキルですね。判断がしっかり伴ったテクニックを出すようにする要素が入っているので、その上で楽しんでもらえれば。そこは、私が思ってる以上にやってくれましたね」
こんな風に、一つのメニューからも松橋監督の狙いがにじみ出ている。つまり、「考え続けること」である。
「常にいろいろなところを動かさなければいけないわけで、そのために大事なのは思考停止をしないということですよね。それをどこまで続けられるか。このメニューでは(試合と比較して)リアリティーはないかもしれないけれど、複数の判断材料をうまく使う必要がありますから」
1月12日から2月1日まで、沖縄県国頭村と糸満市で行うキャンプで、こんなディテールをていねいに積み上げていくことになる。