上写真＝東俊希が1ゴール2アシストと大活躍。チームを牽引する存在になっている（写真◎毛受亮介）
■2024年12月1日 J1第37節（観衆27,105人／＠Eピース）
広島 5-1 札幌
得点：（広）加藤陸次樹、東 俊希、トルガイ・アルスラン、ピエロス・ソティリウ2
（札）鈴木武蔵
「いつもより弱く蹴りました」
大詰めのJ1は最終節を前にして、優勝争いは3チームに絞られた。ヴィッセル神戸が勝ち点61で首位に立ち、1ポイント差で追いかけるのがサンフレッチェ広島。さらに2ポイント差のFC町田ゼルビアもわずかながら可能性を残している。
第37節では柏レイソルになんとか引き分けた神戸に対し、広島は北海道コンサドーレ札幌に5-1と大勝した。加藤陸次樹が1ゴール1アシスト、さらにはPK奪取の活躍を見せたが、東俊希も負けていない。先制ゴールのアシストと、チーム2点目のゴール、そして締めのチーム5点目もアシストしている。
「プレッシャーを相手にかけたんでね。相手も引き分けてくれたし、可能性がまた縮まった」
相手、とはもちろん神戸のこと。ここ2試合はどちらも1-1のドローで、東京ヴェルディにアディショナルタイムに追いつかれ、柏には逆にアディショナルタイムになんとか追いつく展開だった。優勝争いに「勢い」は欠かすことができないが、神戸とは対照的に広島にそれをもたらしたのが、加藤と東というわけだ。
札幌戦はホームラストマッチで、青山敏弘の引退セレモニーが行われることになっていた。時代の変わり目に、若き東には感じ入るものがあった。
「次は自分たち若い選手一人ひとりが責任を持っていかなければ、また強いチームを作っていけない。まずは試合に出てる自分からそういう雰囲気だったり責任感を、プレーでしっかり見せていきたい」
その言葉通りに、しっかりと披露した。スタンドを埋めた2万7105人の人々に、「完璧」で「ラッキー」な圧巻のプレーを見せつけた。
まずは「完璧」から。8分の先制ゴールのアシストだ。
「完璧でしたね。あそこで決めてくれる（加藤）陸次樹くんもすごいですけど、あのタイミングで走り出すのが見えて」
左サイドで相手陣内に入ったあたりでもう、加藤が逆サイドを突進する姿を視界に収めている。GKと戻ろうとするDFの間にできたスペースに向けて、東は自慢の左足を振って早いタイミングで送り出す。加藤がていねいにゴール左へと流し込む。
「あのタイミングで走ってくれる選手もなかなかいないんで、すごいやりやすいです。それに、キーパーも前に出てくるタイプだから、（パススピードが）遅すぎても出てくるし、（コースも）もう少しキーパー寄りなら取られてしまう。難しいけれど、そこは感覚でやって、ホントに完璧でしたね、あれは」
続けて「ラッキー」のほうは、チームの2点目となった自らのゴールだ。42分に同点とされて停滞しかけたムードを、左足のひと振りで前半のアディショナルタイムに晴らしてみせた。右サイドからのFK。ゴールまでは距離があった。
「キーパーが身長があまり高くないということで、速いボールというよりは、こっちには身長が高い選手がたくさんいるのでいつもより力は弱く蹴りました。いいボールだと思いました」
少し滞空時間が長くなるようなボールを味方に合わせて蹴る。でも、誰も触れない。そのことが幸いして、ワンバウンドしたボールがゴール左に吸い込まれていく。
「誰かが触ってくれると思ったんですけど、結局、自分のゴールになったのでラッキーですね」
87分のチーム5点目は左CKを中央に送り、ピエロス・ソティリウのヘッドにピタリと合わせる。
「今日は本当に感触が良くて、 コーナーキックが結構あったので1本は決めるかなと思っていました。いつもこういうフィーリングで蹴ることができたらいいなと思います」
どのキックも「糸を引くように」という表現がふさわしいのだろうが、まさにそうなることがあらかじめ決まっていたかのように確信的にその場所へと届けられている。キックの精度が高いというのは、こういうことを言うのだろうし、中心選手としての自覚がその技術に組み合わされたことで、凄みを増しているようにも見える。選手が一気に成長のステップを駆け上がるのは、まさにこういうときだ。
「アオさん（青山）やカシさん（契約満了が決まった柏好文）が練習ですごく調子がいいなと感じていて、それを見て僕もやらなきゃいけないという気持ちにさせられたんです。そういう尊敬できる人、ついていきたいと思わされる人がいなくなりますから、次は僕がそうなりたいと思います」
青山が、柏が伝えてきた男気を、東が受け継いだ。鮮やかな1ゴール2アシストは、そのことを満天下に知らしめるという意味があったのだ。
