6月22日の明治安田J1リーグで、浦和レッズの武田英寿がピッチに登場したわずか1分後に自身J1初ゴールを決めると、アディショナルタイムには意表を突くFKを直接決めて、0-2からの同点劇の主役になった。特に2点目となった直接FKはお見事。そこに至るまでの思考を明かした。

上写真=2ゴールで浦和の苦境を救った武田英寿。サポーターも万雷の拍手で感謝を示した(写真◎J.LEAGUE)

■2024年6月22日 J1リーグ第19節(@埼玉/観衆48,638人)
浦和 2-2 鹿島
得点:(浦)武田英寿2
   (鹿)鈴木優磨2

J1初得点は「普通のゴール」

「決めたらラッキー、読まれたら最悪、という覚悟で蹴りました」

 武田英寿が胸を張る。浦和レッズが2点のビハインドを追いついたのは、この人の2ゴールのおかげだ。

 手も足も出ないかのような前半を終えて、0-2。鹿島アントラーズのエース、鈴木優磨に2点を決められて、さあ後半、浦和はどのように反撃するのか。

 アンカーに安居海渡、インサイドハーフに伊藤敦樹と岩尾憲という異例の組み合わせでスタートしたものの、機能するまでには程遠かった。そこで後半、伊藤と岩尾をそのままボランチに下げて、逆に安居をトップ下に置く「反転三角形」に変更した。加えて大畑歩夢を左サイドバックに入れて、渡邊凌磨を左ウイングに据え、反撃開始だ。

 66分にブライアン・リンセンと前田直輝、73分に佐藤瑶大を加えたあとの76分が、試合の分かれ目になっただろう。武田の登場である。渡邊がトップ下に移り、この背番号47は左サイドハーフに入った。

 するとたったの1分後に、早くも結果を残してみせるのだ。石原広教のロングパスで右サイド深くに抜け出した伊藤敦樹が、確実にマイナスに折り返す。そこにいたのが武田。慌てることなく左足でていねいにゴール右にパスをするように送り込んで、追撃の1点目を決めた。これが自身にとってJ1初ゴール。

 ただ、まだ1点を返しただけ。「普通のゴール」と特別な感情も沸かずに、次の1点を目指した。

 そして生まれた2点目のインパクトは強烈だ。90+2分についに同点に追いついた、という試合の流れからも価値があるのだが、そのキックの質と意外性のハイブリッドで決めきったスペシャルなシュートだったからだ。

 ゴール左からの直接FKで、浦和の選手たちが中央に構える。鹿島のGK早川友基も備える。しかし、武田から見てニアサイドであるゴール左側が空いていた。

「キックはもちろん自信ありました。決められるなって思った」

 ボールをセットしたそのときから、もう予感はあったのだ。

「あとはキーパーがどれだけクロスを狙ってるかな、とか。そこはもう強いボール蹴ろうと思ったんで、駆け引きというか、最後まで(コースを)見ることはせずに、決めたらラッキー、読まれたら最悪、っていう覚悟で蹴りました」

 誰もが中央に合わせに来ると予測したその逆を、鮮やかに取った。言葉通りに左足に込めた力を思い切りボールにぶつけてニアを狙った。早川の手前ですっと落ちてバウンドして跳ねたのは狙ったわけではなかったと正直に明かしたのだが、それでもGKが取りにくいパワーショットが効いて、するりとゴールに飛び込んでいった。

 このシーン、実は「リハーサル」があった。

「ルヴァンカップの長崎戦で最後にああいうシーンがあったんですけど、キーパーにキャッチされたんです。狙ってもよかったなって後悔したんで、今回は強気に行こうと思っていました」

 後悔を、しっかり結果として示した一発だった。

「4-3-3のインサイドハーフとしてプレーできますし、4-4-2もしくは4-2-3-1のウイングもできます」

 武田の適性をそう見ているのはペア・マティアス・ヘグモ監督である。

「チームの中でも意欲的に向上心を持って成長している1人だと思います。攻撃面だけではなく、球際のところでの力強さももう身についています。もちろん今後のスタメン候補に挙がってくる選手です」

 青森山田高校から加わって、プロ5年目。FC琉球、大宮アルディージャ、水戸ホーリーホックへの期限付き移籍を経験してきたレフティーが、いよいよ開花の時を迎える。


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