6月1日の明治安田J1リーグ第17節で、アルビレックス新潟が首位のFC町田ゼルビアから3ゴールを奪って、3-1の勝利を手にした。プレスを技術でひっくり返す戦いに成功したが、秋山裕紀の立ち位置の変化が首位チーム攻略の大きなキーポイントになった。

上写真=新潟の3点目は秋山裕紀のFKが誘ったオウンゴール。勝利に近づく一発に、秋山はこの笑顔!(写真◎J.LEAGUE)

■2024年6月1日 J1リーグ第17節(@Gスタ/観衆10,411人)
町田 1-3 新潟
得点:(町)藤尾翔太
   (新)小見洋太、藤原奏哉、オウンゴール

パワーにはパワーを

「やっぱりそこが今日の試合の肝になってくると思っていましたし、そこに負けてしまったら自分たちのサッカー以前の問題になってしまう。一人ひとりがしっかり意識していこうとして出せたと思います」

 秋山裕紀の言う「そこ」とは、球際のバトルのことである。

「町田さんはものすごくいいチームですし、ビルドアップから、高さから、セットプレーからと、すべてにおいて本当にスキのないチーム。でも、自分たちはリスペクトしすぎずに、しっかり戦い抜けたことがとても良かった」

 FC町田ゼルビアの得意な部分を迂回して抜け出そうとするのではなく、真っ向勝負で上回る。それから、自信のある技術とコンビネーションでゴールに迫ればいい。それが首位チームと戦うアルビレックス新潟のプランの一つだった。

 パワーにはパワーを。それが功を奏して、3-1の勝利だ。

 松橋力蔵監督はこの試合に向けたトレーニングで「実はビルドアップがうまくいっていなかった」と明かしている。それでも、3つのゴールをたたき出すことができた。24分、小見洋太の豪快な抜け出しからのフィニッシュ、45分、左から攻めて最後はゴール前に潜り込んだ藤原奏哉のプッシュ、そして52分、秋山のFKが誘ったオウンゴール。

 ビルドアップの課題をどう克服したのか。ボールを循環させるキーマンであるボランチの秋山が、試合後にていねいに分析した。

「最初にこちらが前に入っていくところでは、相手もボランチを前に出してきたり、ツートップがこちらのアンカーのところをケアしてきました。でも、1回しっかり間を経由しながらもう1回やり直したときには、相手がスッと下がるところがあるんです。そこで2回目でしっかりピックアップに入って形を作れたのがよかったですね」

 最終ラインからスタートするビルドアップで、最初のパスには相手も食いついてくる。しかし、ボールを動かしてライン間に届けば町田はポジションを下げる癖がある。そんなピッチの上の動静を把握しながら、攻略できるスペースを探していった。

「そういう意味で、しっかり相手を見てプレーするのは自分たちの良さ」であり、それを証明したのがロングボールだった。

「町田が前からプレスに来るのは分かっていて、それを裏返す長いボールも出せていた。ショートパスとロングボールの使い分けはできていましたね」

 2点目は早川史哉がインターセプトしたボールを、谷口海斗が素早く裏のスペースに送ったことがポイントの一つだった。町田がやりたかったことをこちらが成功させて、ゴールに結びつけた象徴的なシーンだ。

「そこでいろいろな駆け引きがある」

 これはもちろん、町田に対する攻略法なのだが、短いパスと長いパスを織り交ぜる――松橋監督の言葉を借りれば、「手前」と「奥」を使い分ける――ことは今季の新潟の大きな大きな課題だった。それをチーム全体でシンクロさせるのに苦心してきて、結果もついてこなかった。解決の兆しが見えてきたのは、5月15日の第14節、横浜F・マリノス戦だ。

 この試合も3-1というスコアでの勝利になったが、秋山がボールをピックアップする場所が明らかにそれまでとは変わっていたのだ。常に最終ラインまで下がっていたのが、最初のビルドアップはセンターバックに任せて、相手のFWと中盤のラインの間でポジションを探すようになった。

「自分が後ろで関われば安定はしますけど、前にボールが入ったあとに経由地点が一つ足りなくなる。そこで1対1ではがせればもちろんチャンスになりますけど、数的優位を作るために自分がもう一つ前に入っていく重要性について、ミーティングでも話がありました」

 Jリーグでも評価の高いパスの技術を、より相手が怖がる場所で発揮する必要があった。町田戦でもそうだった。

「相手の2トップの背中のところでしっかり受けて、角度を持って前向きで入っていくことは意識しました。町田さんもそうですけど、4-4-2のチームはアンカーのところをどう守っていくかが弱点になるというか、そこでいろいろな駆け引きがあるので、しっかり使うようには意識しました」

 町田は柴戸海と仙頭啓矢がボランチでプレーするのだが、柴戸が後ろで仙頭が前に立つダイヤモンド型に近い配置になる時間が長い。だから、特に攻守の切り替えのシーンで柴戸の周辺に秋山が立つことで、より優位な状況を生み出せるという駆け引きだ。

 もちろん、押し込まれたときにリズムを変えたいときには、秋山がそれまでのように最終ラインにまで下がってボールを受けにいく。しかし、できるだけ高い位置でボールを触ることが、いかに相手の警戒心を高めてこちらの攻撃に厚みを加えるかは、この町田戦で証明できた。

 この試合を終えた時点で14位。「てっぺんを目指す」と宣言したチームには苦しい順位だが、ここからの逆襲は秋山の立ち位置がバロメーターになるだろう。


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