わずか2勝と苦しむ川崎フロンターレが、浦和レッズを相手に3-1で勝利を収めたのが、5月3日の明治安田J1リーグ第11節。一進一退の攻め合いの中、徐々に支配していったのは川崎Fの方だった。その中盤では「25歳コンビ」が持ち味を発揮していた。

上写真=遠野大弥(左)と橘田健人が川崎Fの中盤を引き締めた(写真◎J.LEAGUE)

■2024年5月3日 J1リーグ第11節(@U等々力/観衆23,457人)
川崎F 3-1 浦和
得点:(川)脇坂泰斗、佐々木旭、家長昭博
   (浦)大久保智明

画像: ■2024年5月3日 J1リーグ第11節(@U等々力/観衆23,457人) 川崎F 3-1 浦和 得点:(川)脇坂泰斗、佐々木旭、家長昭博 (浦)大久保智明

2人で話し合った「止まっていていい」

 川崎フロンターレが浦和レッズから先制ゴールを奪う少し前、11分に印象的なシーンがあった。

 自陣からのビルドアップで、左センターバックの佐々木旭からボールを受けたアンカーの橘田健人がターンして前を向くと、左インサイドハーフの遠野大弥にきれいにパスを通した。遠野が立っていた場所は、浦和の右インサイドハーフ、伊藤敦樹の背中側で、かつ、アンカーのサミュエル・グスタフソンの左横。

 グスタフソンを底に配し、その前にインサイドハーフとして伊藤と安居海渡を並べた浦和の中盤に存在する「急所」である。遠野がその場面を振り返る。

「そうなんです。浦和のインサイドハーフが前に出てきて、あそこのポジション(アンカー脇)を空けるということは、スカウティングにありました。だから、わざわざ僕が下りていかなくても、(橘田)健人と話し合って、その穴のところで止まっていていいよ、と。健人がボールを持って前を向いた瞬間にちょっと動いて顔を出して、そこはうまくできていたと思います」

 そうやって中盤のラインを抜け出すことで、次の崩しのフェーズに入る。

「(インサイドハーフの)背中を取って、そこから幅を広げてからニアゾーンを取る。あとは、逆サイドの選手もニアゾーンに入っていけば相手は捕まえきれなくなるので、そういうところを狙っていました」

 18分の先制ゴールは、まさにその形。右サイドのスローインから右深くを崩した場面で、家長昭博がセンタリングを入れたニアポスト際に、左インサイドハーフの遠野が入ってきてヘディングシュート、こぼれ球を右インサイドハーフの脇坂泰斗が蹴り込んでいる。

 一方で、同じ「急所」は川崎Fにもある。中盤の構成は浦和とほぼ同じで、アンカーの橘田とインサイドハーフの脇坂、遠野という並び。背中を取られる危険性と隣合わせだ。しかも浦和は、グスタフソンがボールを左右に展開してリズムを刻むメトロノームのような役割をこなしていて、これがやっかい。どのチームもどうやってそこを消していくかに腐心してきた。川崎Fも序盤はそのボールの出どころを抑えきれないまま、浦和に押し込まれていた。

 そこで、鬼木達監督が浦和の中盤を封じるために「前半の途中から少し整理した」と手を入れた。遠野がそのメカニズムを説明する。

「前半の途中からそこが空いてしまって、グスタフソンに自由にやらせてしまいました。なので修正して、4-4-2というか、4-2-3-1のマンツーマンのような形で、自分が(グスタフソンに)ついていって、チャンスだったら前に出ていく、という感じで、攻撃に入ったら4-3-3になる可変がうまくできたかな」

 守備のときにはトップ下の位置でグスタフソンを見張り、攻めに転じればその横のスペースを突いていく。浦和のリズムを分断するキーマンが遠野だったというわけだ。

「前の方から選ぶように、と言われて」

「相手のやり方に対して、自分たちの方法で11番(グスタフソン)をつかむのが最初はなかなか難しくて、ポジションを修正することでうまくつかめるようになってからは良かったと思います」

 橘田健人は中盤の微調整に手応えを感じていた。今季はなかなか勝てずに、中盤の底に2枚を並べる配置で全体を引き締めて戦ってきた展開も多いから、試合中に状況に応じて中盤のキャラクターを変化させていくのは難しいことではない。

 そして、ポジション柄、グスタフソンが真正面にいる構図である。同じアンカーとして注目の存在だった。

「やっぱりワンタッチでパスを前につけるところだったり、 冷静に止めて、なんでもないところに預けたり前を向いていったりするプレーはうまいなと」

 でも、その点で言えば、この日の橘田も負けてはいないだろう。同じように「パスをつける」プレーで2ゴールを演出しているのだから。

 勝ち越しゴールとなった49分の一発は、佐々木旭が最終ラインからドリブルで加速していってそのまま撃ち抜いた爽快なゴールだった。その佐々木を前へと促したのは、橘田のワンタッチパスだ。バフェティンビ・ゴミスが相手を背負って粘ってキープして落としたボールを、優しくていねいに左前に流し、佐々木がそのまま走り抜けた。

「あれは完全に旭の個人技。さすがだなって」

 橘田はそう謙遜するが、そこに預けたパスはていねいだった。

「(左に開いたマルシーニョまで)一つ飛ばそうと思ったんですけど、旭がいいタイミングで上がってきて、しっかり逃さず出せました」

 90+3分のダメ押しゴールもそうだ。ジェジエウが戻したパスを、またもワンタッチで今度は浮き球で左裏へと送り届けた。山田新が受けて縦に抜け、折り返しを逆サイドで家長昭博がプッシュしている。

「(パスを送る場所は)前の方から選ぶように、とずっと言われていたので、それが試合の中で何本か出せていたのがよかったです」

 短く手前に出すだけではなく、よりゴールに近い、相手が嫌がる奥のスペースへと早いタイミングで届ける。その意識が、3点目を生んだ。

 そんな遠野と橘田はともに25歳。チームの中核を担う重要な存在に成長してきた。たくさん走って恐れず戦える共通点があり、橘田には類まれなボールハントとミドルシュートの能力が、遠野にはスピードとシュートのパンチ力という譲れない武器もある。この2人の貢献で、5試合勝利なしのトンネルを抜け出せたのは大きい。

 もちろんようやく3勝目を挙げたに過ぎないが、今季のJ1は混戦模様で、下位から浮上するチャンスはいくらでもある。

「少しずつ良くなっている部分もあって、それが今回は結果として出たので、もっと自信を持っていけるんじゃないかと思います」

 橘田はピッチでの実感をこう言葉にした。

 強い川崎フロンターレの復権へ、「25歳コンビ」がその旗印にならなければならない。


This article is a sponsored article by
''.