5月14日に国立競技場で『Jリーグ30周年記念スペシャルマッチ』として、鹿島アントラーズが名古屋グランパスを迎えた。30年前と同じカードでの対戦は、今回も鹿島の勝利。その一翼を担ったのが、樋口雄太である。「3つ」のゴールに関わったMFはいま、成長を実感している。

上写真=知念慶の追加点をともに喜ぶ樋口雄太。献身的なプレーが光った(写真◎Getty Images)

■2023年5月14日 明治安田生命J1リーグ第13節(@国立競技場/観衆56,020人)
鹿島 2-0 名古屋
得点:(鹿)鈴木優磨、知念慶

「感覚で蹴ってるんですよ」

 樋口雄太は「3つ」のゴールすべてに深く関与した。

 最初のゴールは、幻と消えた。12分に右からのCKを樋口がゴール前に送ると、鈴木優磨がヘッドでゴール左に送り込んだ。だがこれは、直前に鈴木にファウルがあったとして取り消しになった。

 29分にまたも得た右CK。同じように送ると、再び鈴木にぴたりと合い、ヘディングシュートがゴール右に飛び込んで、今度は正真正銘の先制ゴールになった。

 蹴り込む球質に変化を施しているのだという。

「去年までは強いボールを蹴ろうという意識だったんです。でも、岩政監督とも話して、速いボールではなくてゆるいボールだと相手はクリアしにくいというか、思いきりクリアできないという感覚があるので、その使い分けもやっていこうかなと。それがいま、ハマってるなと思うんですよね」

 確かに幻弾も先制点も、滞空時間が長く、やや高さのある軌道を描いていた。そしてどちらも、密集したエリアでそこだけぽっかり空いている場所に、正確に届けている。鈴木の周りで鹿島の選手がうごめき、あえて動かない鈴木の頭上に生まれた空間である。

 樋口は「僕はもう感覚で蹴ってるんですよ」とその場所を狙ったわけではないと謙遜して、「相手はファーのところのケアがちょっと甘かったので、優磨くんもそこを突いてくれたんだと思います」と決めたエースを称えるのが、この人のまっすぐさだろう。

 そして、その空間を生み出すために動いた仲間たちにも賞賛の言葉を。

「優磨くんの得点ではありましたけど、他につぶれてくれた人もいましたし、そうやって一人ひとりが自分の役割をまっとうしたことが得点につながったんだと思います」

 みんなのゴール。そう強調するのだ。

「いろいろなポジションでチームを助ける」

 これで5連勝。しかも、すべてクリーンシート。序盤に勝てなかったころのモヤモヤがウソのような快進撃だ。第9節のアルビレックス新潟戦から、いわば鹿島の伝家の宝刀である4-4-2システムに切り替えたことと無関係ではないだろう。

 どこにでも顔を出して違いを作ろうとした鈴木が前線に固定され、無駄なパワーを使わなくなったことで、ピッチ全体の役割が整理された。それを司るのが、ボランチに入る樋口である。もちろん、最大の持ち味は、3列目から迫力のランで追い越してフィニッシュに、あるいはチャンスメークに関わる大胆さ。だが、その魅力を発揮するタイミングや回数を見極めているという。

「一人ひとりの役割があって、制限されるところもありますけど、チームが勝つのであればそれを優先するべきです。もちろん持ち味を出せない試合もあるけれど、出せていることも増えてきて、出したい欲を出さないようにするメリハリもすごくうまくやれているんじゃないかな」

 我慢、とは少し違う。「メリハリ」という表現に手応えがあふれる。

 加えて、もう一つの役割でも十分な働きぶりだった。57分に左サイドハーフの仲間隼斗に代わって佐野海舟が入ると、ボランチを佐野に任せて仲間がいた場所に回った。1点のリードを保ちながら、名古屋の必死の反撃をいなして試合をどうまとめていくか。

「いろいろなポジションでチームを助けるプレーができれば、自分の価値も高まると思いますし、チームとしての立ち位置も上がってきます。そういうところに自分自身の成長を感じていて、すごくいい感じで取り組めていると思います」

 そんな「いい感じ」が、試合を決めるきっかけになった。

「じれずにやれたことが一番良かった」

 それは「3つ目」のゴールの場面に表れた。

 84分に待望の追加点を決めた知念慶は、一度シュートを防がれたあとにすかさず立ち上がり、そこに相手が触ったボールがこぼれてきて蹴り込んでいる。

「樋口が切り替えてすぐに奪いにいったのが見えたから」

 知念は最初のシュートのあともあきらめずに食らいつく樋口のアクションに刺激を受けたのだ。

「名古屋も球際はすごく強いですけど、僕たちも特に密集するところで強みが出ると思うので、それを出せたんじゃないかなと思います」

 まさにあのシーンで、強みを見せつけた。ボールに襲いかかって相手のミスを誘発したのは、相手陣内の左寄り。左サイドハーフに移ったからこそ実現したプレスだった

 こうして、幻のゴールで始まった試合を、しっかりと勝利でクローズした。

「やっぱり、じれずにやれたことが一番良かったと思います」

 心の安定が5連勝をもたらした。それが樋口の実感である。


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