上写真=鬼木達監督が4度目の優勝へ王手。決まれば史上最多優勝の偉業達成だ(写真◎J.LEAGUE)
「練習時間が増えても、選手が文句を言わなくなりました」
史上最多の記録を塗り替える4度目のJ1優勝を前に、川崎フロンターレの鬼木達監督は静かだ。
「目の前の1試合に勝つためだけに集中しているので、(記録更新への思いは)まったくないですね。監督を辞めたあとに、いい仕事をしたな、とほかの人にも言ってもらえればいいかなと」
というわけで、偉業を本当に味わうのは、もっともっと、ずっと先のことになる。
リーグ戦では7連勝中。直近の天皇杯準々決勝でも強敵の鹿島アントラーズを3-1で押し切って、ベスト4進出を決めている。紆余曲折あったシーズンだが、ラストスパートへ戦力の高まりを実感する。
「選手たちはいろいろな意味での戦い方そのものについて成長を感じますし、気持ちのところも難しいゲームでも勝ち切るために何が必要かを表現できるようになってきました。チームの成長も個人の成長も楽しみで、若手や新人もそうですし、ベテランと言われる選手たちもゲームの中で経験を生かして表現してくれて、頼もしいと思って見ています」
鬼木監督自身も戦ってきた。特に9月から10月にかけて、浦和レッズにルヴァンカップで、蔚山現代(韓国)にAFCチャンピオンズリーグで敗退させられて2つのタイトルを一気に失った。だが、そこからのJ1の過密日程を「勝負の5連戦」と銘打って苦しいからこそ全勝を強く意識させ、選手の底力を引き出して本当に5連勝を達成した。マネジメントが冴えた。
2020年の優勝が爆発力によるものだとすれば、2021年のシーズンの戦いは我慢の連続だったという。「練習時間が増えても、選手が文句を言わなくなりました」と笑わせたが、そんな選手のメンタルタフネスが原動力だ。
「まだ終わっていないので振り返られないですけど」と前置きして、走り続けるいまを高く評価する。
「去年はどちらかというと爆発的な力を発揮するゲームが多かったと思います。今年はいろいろなところでの我慢ということになりますが、我慢比べで勝ち続けることで自分たちが崩れないことが、結局、最後まで立ち続けられることになるわけです」
言葉にするのは簡単だが、本当に苦しかった。中村憲剛の引退、守田英正の移籍、選手とスタッフの新型コロナウイルスへの感染、超過密日程、田中碧と三笘薫の夏の移籍、ルヴァンカップと最大のターゲットだったAFCチャンピオンズリーグからの敗退、長い隔離生活、度重なるケガ…。
とはいえ、まだ優勝が決まったわけではない。目の前に立ちはだかるのは、リカルド・ロドリゲス監督が率いる浦和だ。鬼木監督もとても気になっているようで、次々に賞賛の言葉が飛び出てくる。
「勢いも質も面白さも感じています。いろいろな特徴があるというか、つなぎの部分があるようでカウンターがあったり、攻撃がいいところを全面に押し出すだけではなく守備がオーガナイズされていたり、チーム全体でゲームプランを理解していて、実際にプレーできる選手がいます。新しい選手を夏に獲得したけれど、ゲームの中でフィットさせているのはすごいことだなと単純に思います。それに、前線の得点力は面白いですね」
それはほとんど、川崎Fにも当てはまるのではないか。同じような攻撃的な思想をピッチに描く指揮官、鬼木達とリカルド・ロドリゲスの華麗なる戦いもまた、見る側にとっては至高の体験となる。