上写真=橘田健人は浦和戦でインサイドハーフとサイドバックでプレー。そのポリバレントな能力で対応した(写真◎J.LEAGUE)
■2021年9月1日 JリーグYBCルヴァンカップ 準々決勝第1戦(@浦和駒場/観衆4,629人)
浦和 1-1 川崎F
得点者:(浦)関根貴大
(川)家長昭博
「最低限のことはできたかなと思います」
川崎フロンターレの橘田健人が右サイドバックに入るのは、決して初めてのことではない。ただこの日は、守備の要のセンターバック、ジェジエウが負傷交代し、直後に失点するというスクランブルでの配置転換になった。
ルヴァンカップ準々決勝第1戦の浦和レッズ戦は、川崎Fにとっては落ち着きのない展開の連続だった。31分にジェジエウが足を痛めて交代。その4分後、まだ落ち着いていなかった最終ラインの乱れを突かれて先制点を献上してしまう。山根視来が日本代表に選ばれて不在で、代わって右サイドバックに入ったイサカ・ゼインが早々に警告を受けたこともあって、ここで橘田が右インサイドハーフから右サイドバックに移ったのだった。
序盤は、スラロームドリブルの使い手であるMF汰木康也と、パワー満点のランニングで圧倒するDF明本考浩という縦のコンビでこのサイドを攻略されていた。鬼木達監督も「ゼインも少しボールを取りに行く作業ができずに起点を作られていて、プレスをかけても収められてしまったりして、健人を(サイドバックで起用する)準備していたところもありますが、まずは落ち着かせようと」決断した。
「守備に追われる時間が多かったので、まずはディフェンスをして、失点しないことを意識して、チャンスがあれば攻撃にも参加して、チャンスを作っていこうと考えながらやっていました」
橘田の意識はまずは守備を整えることだった。その後も浦和に主導権を握られる展開で、今度は同じセンターバックの車屋紳太郎まで負傷で80分に交代することになったが、2点目は奪われなかったから、橘田のコンバートももちろん守備強化の要因の一つになっただろう。
「全体的に、アクシデントもあったり先制されたり、厳しい試合展開になりましたけど、なんとか引き分けまでもっていけたのは良かったんじゃないかなと思います」
これが本音ではないだろうか。苦しい中でも、VARのチェックのあとに主審のオンフィールドレビューを経て川崎FにPKが与えられ、家長昭博が決めて72分に同点に追いついている。
「一番は勝てれば良かったけれど、アクシデントもあって、予定しなかった展開にもなりました。引き分けまでもっていけて、最低限のことはできたかなと思います」
それにしても、頼もしいルーキーだ。インサイドハーフ、アンカー、サイドバックと主に3つのポジションを経験し、出足の鋭さとパスを読む洞察力を生かして存在感を増している。チームが柔軟な組み合わせで戦えるのも、ポリバレントな橘田がいてこそだ。AFCチャンピオンズリーグでは3試合連続フル出場を含む5試合4得点と経験を積んで、この浦和戦でそれ以来の3試合連続先発フル出場だ。
中3日で準々決勝第2戦を迎える。
「奪ったあとのパスだったり、質の部分をもっと上げていければチャンスを作れたと思います。細かいところをこだわってやっていきたい」
「今日の試合で課題が出たので、改善してホームで圧倒して勝てるようにしたいと思います」
この日、負傷交代したジェジエウ、車屋のほかに、谷口彰悟、旗手怜央、大島僚太らも負傷離脱中。山根も日本代表に参加しているし、さらに9月14日には韓国へ飛んで蔚山とACLラウンド16を戦う。この踏ん張りどころに、タフなルーキーがその価値を見せつける。
取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE