上写真=ウズベキスタンでの日々が鬼木達監督にとっても有意義になった(写真◎ 2021 Asian Football Confederation)
「オレは勝ちたいんだ、と選手に話をしました」
実力通りの5連勝。だが、苦しい状況に対応して勝ちきった選手たちの振る舞いが、成長の証になった。中2日で続いたグループステージの5戦目、大邸FC戦ではレアンドロ・ダミアンのハットトリックで3-1の勝利。首位でグループステージを突破した。
この試合は唯一、ブニョドコル・スタジアムでの開催となった。これまでのロコモティフ・スタジアムと比べてピッチ状態が劣悪で、選手たちも苦労した。鬼木達監督も「自分が学生のときにやっていた感じ」と苦笑いするほどだ。それでも、グループ最大の難敵に勝ちきった。
「ピッチや環境が難しい中でも、オレは勝ちたいんだ、と選手に話をしました。自分たちらしさ、川崎らしさでなければ勝てない、ではなくて、過酷な状況でも力を発揮して勝っていければと伝えたんです。状況に合わせた戦いで勝てたこと、このタフさには感謝しています。チーム全員でウズベキスタンに来ているので、サブの選手やメンバー外の選手も声かけて一体感のあるいい試合になりました」
強いチームがさらに強く伸びていくのは、こうして新しい刺激を強烈に受けたときなのかもしれない。
選手への成長を誇らしく語るのと同時に、監督としての自分自身への気づきもある。
「準備が一番大事だなとこの短い時間でも重要性を感じました。これまでも絶対に大事だと思ってきましたけれど、今回、短期間で準備しなければいけないけれど、それでも妥協せず、最後の最後まで準備に時間をかけるのが大事と思っていました」
異国の地で、行動制限に縛られながら、中2日で前節の反省と次の対戦相手の分析をこなし、選手のコンディションを見極めてメンバーを選び、試合に臨む。短い時間で集中して最高の仕事ができたのは、まさに「チーム鬼木」とも言えるスタッフの尽力のおかげでもある。鬼木監督も「どんどん意見をくれるんです」と感謝する。
鬼木監督自身も過酷なスケジュールだからこその思考術を身に着けた。
「同時に、連戦でどんどん頭の中がパンパンになって疲れもありました。そこで自分が伝えたいことを全部伝えていたら選手にも疲れがきてしまうので、自分の中では『捨てる作業』も大事なんだ、と心がけてきました。詰め込みすぎずにというか。でも、それでも選手としては詰め込み過ぎだと思っていたかもしれませんけど」
川崎Fらしい戦いではなくてもきっちりと最大の成果を上げる、いわば「引き算の美学」。いつか、監督・鬼木達の新しい扉が開いた大会だったと振り返る日が来るかもしれない。