上写真=ガンバ大阪戦できれいなパスから先制ゴールにつなげた。脇坂泰斗はきっちり仕事をする男だ(写真◎J.LEAGUE)
感性・知性・技術
あの何から何まで絶妙な、すべてが「ちょうどいい」感じは、まさに脇坂泰斗らしい鳥肌モノのアクションだった。5月8日のJ1第13節ガンバ大阪戦、41分に決まったレアンドロ・ダミアンのゴールに至るプレーを、自らこう解説する。
「相手のクロスボールが流れて、ワイドのアキさん(家長昭博)さんと(長谷川)竜也くんが攻め残りのような形になっていて、その分、相手のサイドバックが広がっていてスペースがあるなと思っていました」
こちらの右サイドに流れてきたボールは山根視来が回収、すかさず家長へと縦に送る。家長は中を向いて持ちだした。そこに追いついたのが脇坂だった。
「スピードを上げすぎてもアキさんから出てこないなと思ったので、中を向いたタイミングで受けてから、いいスピード感で蹴ることができました」
家長からボールを引き出すと、G大阪の右サイドバック佐藤瑶大の裏に右足のアウトサイドでボールを滑り込ませた。
「試合前から、竜也くんには裏を抜けてくれと話していて、そこに出せなかったら自分のせいだからと言っていたので、竜也くんが駆け引きしてくれていました。タイミングを逃さないように、センターバックとサイドバックの間が空いていたので、触られないように、スピードを殺さないように、あのタイミングしかないなと」
あえてトップスピードで走らずにボールを引き出した感性と、スカウティングで佐藤が本来はセンターバックだという情報を生かす知性と、柔らかに右アウトサイドでスルーパスを送り出す技術。どれもこれも絶妙だった。これを受けた長谷川が中に切り込み、最後はレアンドロ・ダミアンが左足で蹴り込んで、先制した。
「ストレスなく誰とでもやれる」
その長谷川へは、裏抜けのパスだけではなく、得意のドリブルを生かすために足元につけてあげるパスも供給していった。どちらを選ぶかの判断基準は「相手の立ち位置かなと思います」である。
「スルーパスを出したシーンは(佐藤が)多少竜也くんに寄ったタイミングで背中を取りましたし、逆に背後に動こうとして相手がつられたら足元に入れれば前向きで抜けられますし、味方とのタイミングもそうですが、相手の体の向きや狙いは意識しています」
選択肢を選び取る基準が揃うから、きれいに崩せるというわけだ。もちろん、言葉にするのは簡単だが、実行するのは難しい。この日は左センターバックに車屋紳太郎、左サイドバックに旗手怜央、左ウイングに長谷川竜也と、出場時間だけでいえば最も多いわけではないメンバーと組んだということもある。そこで生きてくるのが、脇坂が感じる自らの特徴だ。
「特徴の一つとして、誰と出ても仲間の良さを引き出せるということがあります。だから、試合で合わせることも難しくないのかなと思います。そんなにストレスなく誰とでもやれるし、トレーニングで自分の特徴も知ってもらえていてますし、フロンターレはみんなできるので」
だが、これでもまだ物足りなさはある。ずばりと課題を示す。
「ボールを持っている時間の割に、チャンスが少ないと僕は思います」
どれだけ勝利を重ねても満足しないのも、脇坂の魅力だろう。