上写真=2冠達成はチームの成長の証だが、まだまだ突き詰めることがあると大島僚太は語った(写真◎小山真司)
■2021年1月1日 第100回天皇杯決勝(@国立競技場/観衆13,318人)
川崎F 1-0 G大阪
得点:(川)三笘薫
あれだけ愛されるサッカー選手はいない。僕も愛していた一人
大島は何度も声を詰まらせた。試合後のオンライン取材で、「大島選手にとって中村憲剛という選手はどういう存在だったか?」と聞いたときだ。
「やっぱり、本当に、まあ…。えー…、居なくなることが信じられないと言えば信じられないし、それぐらい一緒にプレーしている間に、たくさんのことを教えてもらいました。あれだけ愛されるサッカー選手というのはいないと思いますし、僕もその憲剛さんを愛していた一人だと、引退発表されてからの憲剛さんを見て、本当に感じていたので。今後も、憲剛さんのことを思い出せば悲しくなるかなと。
ただ、憲剛さんはああいうふうに次のステージに進むということを、胸を張っておっしゃっていたので、そこに僕がいつまでも依存はできないなと。チームとしてもそうですし、そこは思います。今後、負ければ『やっぱり憲剛さんかな』とか、言われることもあるかと思うので、自分が引っ張って、覚悟を持って、戦っていきたいと思います。
本当に憲剛さんには、感謝しかない。どういう存在っていわれると…難しいかな。やっぱりすべてを教えてもらったサッカー選手ですし、感謝が一番かなと思います」
大島が静岡学園を卒業し、フロンターレに加わったのは、2011年。以来、10シーズンに渡って、中村憲剛とともにプレーしてきた。タイトルを獲れずに苦しい時期を過ごし、2017年以降は毎年タイトルを獲得する黄金時代を築いてきた。高卒ルーキーがタイトル争いするチームの10番を背負い、今、チームの中心としてピッチに立っているのは、常に前を走る偉大な先輩がいたからだ。「すべてを教わった」というのは大島の偽らざる気持ちだろう。
時折、言葉に詰まり、涙をぬぐう姿から、思いの深さが伝わってくる。チームを引っ張るとはどういうことか。チームを勝たせるとはどういうことか。プロサッカー選手とはどうあるべきか。
中村憲剛のいないチームで、自分がけん引車となると、大島は言った。それこそがまた、これまでチームを支えてきた尊敬する先輩から教わった『姿勢』なのかもしれない。
「試合を見返せば、立ち上がりの決められそうなシーンで決められなかったところは突き詰めていく必要があると思いますし、終盤になって押し込まれたシーンが長い時に、どう掻い潜るか。今まではそれを掻い潜れずに、とくに2019シーズンなんかは引き分けが多かったことを考えると、そこで耐えられたというのは、(2020年の)成長だと思いますけど、自分たちがやりたいサッカーとしては、もっと相手を圧倒し続けて、試合を終わらせたいというのがあります。なので、それをどう終わらせられるかというのは課題というか、これから必要な、目を向けていくべきところだと思います」
天皇杯決勝の戦いを踏まえて、チームの今後にもしっかり目を向けた。2冠達成にも、慢心はない。
もう「依存はできない」ーー。自らも「愛した」サッカー選手が築いてきたチームを、これからは先頭立って引っ張り、発展させていく。大島が流した涙と口にした言葉には、感謝の思いと決意が詰まっていた。
取材◎佐藤 景