上写真=大島僚太は前節の鹿島戦で復帰。優勝へ向けて頼もしい男が加わった(写真◎Getty Images)
遠くを見ておくことの大事さ
とても意外なのだが、大島僚太がピッチの上で何度も繰り出す決定的なパスの感覚を習得したのは、プロになってからだったというのだ。あれだけ効果的で相手が嫌がるパスを放てるのだから、少年時代から得意としていたと思いがちだが、そうではなかった。
指南したのは、中村憲剛だという。
中村も細身の体でありながらそのパスでプロとして地位を築いてきた。大島にとってはその点でも参考になるお手本だった。
「体の使い方というか、相手に当たられない準備の大切さだとか、パスをする上でどこを見ておくことが大事だとか、そういったところはよく話もしました。実際に憲剛さんが体現してくれるのを間近で見て、習得しようという意識でやっていました」
つまりは準備の重要性を伝授されたわけだが、パスをする上で見る場所とはどこだろうか。
「僕はもともと静岡学園出身なのでずっとドリブルをしていて、パスの練習をしたことがなかったんです。憲剛さんに言われたのは、まず遠くを見ておくことの大事さでした。それをすごく伝えてもらって意識するようになりましたね」
中村自身も「遠くを見る」ことについては何度も言及していて、いわばパスの準備の基本中の基本だ。
「パスの楽しさを知ったのはプロになってからだし、ドリブルだけだと体格やスピードを含めてプロでやっていけない中で、武器の一つとして取り入れられるのがパスだったなと思います」
そんな話を聞くと「僕自身がプロでやっていく上でのお手本でしたし、自分がいまあるのも憲剛さんのおかげで、とても感謝しています」という言葉が、よりリアリティーを持ってしみ込んでくる。
パスで生きていく、という姿勢は、「僕は単純にサッカーが大好きなので」と笑うそもそもの大島の気質も影響しているだろう。だから、鬼木達監督が「こういうときこそ楽しもう」と選手に投げかける言葉にも大きくうなずくのだ。
「チームがうまくいっていても楽しいですし、語弊があるかもしれないけれど、うまくいっていなくてもうまくいかせたいという感情が高まる部分があるんです。勝てば優勝、というような部分に左右されて楽しむ心を忘れるのは良くないと思っていて。コロナの影響がある中で、試合ができる喜びを感じていますし、サッカーができる楽しさを感じています。できるだけで楽しめている自分がいるのかなと思います」
「もちろん、チームとしてのやり方は整理しておかないと味方との連係がずれたりするので練習で詰めていきますけど、試合ではそれを思い切り体現するだけなので、楽しむ心が大事かなと思います」
だからきっと、大島のパスはあんなに楽しいのだろう。
とはいえ、プロとして厳しく勝負に挑む必要がある。優勝への最後のアプローチの時期を迎え、前節の鹿島アントラーズ戦で5試合ぶりにピッチに帰ってきた。11月18日の横浜F・マリノス戦、21日の大分トリニータ戦で連勝すれば自力で3度目の栄冠に輝く。
「マリノスは前節の結果だけを見れば(○6-2浦和レッズ)、攻撃がすごくスムーズになっている部分があると思います。前回はアウェーで開始早々に失点しているので、試合の入りの部分ではインテンシティの高さに気をつけないといけないと思っています」
昨季はリーグ優勝へひた走る横浜FMにホーム最終戦で1-4と屈辱的な敗戦を喫している。今度はこちらの番。昨季のあの悔しさも、楽しいパスで帳消しにするつもりだ。