上写真=根底にあるのは「楽しい」という気持ちだと鬼木監督は話す(写真◎Getty Images)
「攻撃があってこその守備」
相手の守備網を空転させる選手の連動と鮮やかなパスワーク、バリエーション豊かで美しい得点パターン。そんな派手なゴールラッシュで2020年のJ1リーグの主役になっている川崎フロンターレ。59ゴールはもちろんリーグトップだ。
一方で、失点はわずか18とこちらもリーグで最も少ない数である。では、実際にピッチの上でどんなディフェンスの戦略が用いられているのか。超攻撃サッカーにおける守備の哲学とは、どんなものだろう。
「守備と攻撃を分けて考えるのは難しいですが」
と前置きして、鬼木達監督は話し始める。
「私は攻撃があってこその守備だと考えています。敵陣でどれだけプレッシャーをかけられるのか。ですから、攻撃が成立しないと守備は実際には成立しないと思っています」
あくまで一般論だが、守備から組み立てるのがチーム作りの原則と考えられる中で、まったく逆の考え方である。
「もちろん、相手があることなので向こうの陣内だけではやれませんから、そのときに何をするか。『コンパクト』と『スライド』ということをとにかくキャンプの最初から言い続けていて、どれだけ強気でやれるか、ですね」
「そのためには(相手のパスの)出どころにどれだけアプローチしていけるか。課題というか伸びしろだと考えています。あとは僕が単純に選手に期待しているというか」
「一人ひとりがボールを奪える選手になってほしいんです。チームとして意図を持ってどこで取るかというものもありますけれど、自分の判断の中でチャンスだと思ったときに取り切る力がいろいろなところで出てくると、見ていて楽しいですよね」
「だから、守備で魅せたいという意味で言うと、個々で奪えれば、いろいろなスタジアムで私たちを見てくれる人に沸いてもらえるシーンが増えると思うんです」
「あとはスピード感ですよね。インテンシティというか、そこを連続できる時間を増やしたいと思っています」
コンパクト、スライド、強気、アプローチ、取り切る、楽しい、守備で魅せる、スピード感、インテンシティ。守備を読み解くキワードが続々と出てきた。そして、そのどれもが、本当に基本的なものであることが分かるだろう。
その中で「見ていて楽しい」は、川崎Fそのもののキーフレーズではないだろうか。鬼木監督は常に、見ている人を楽しませるサッカーを、と言い続けていて、このチームが目指すものの中で最上位に設定している。しかも、川崎Fだけではなく日本中のJリーグのファン・サポーターに向けたメッセージとしても発信している。
攻めも楽しい。守りも楽しい。そして、対戦する相手はそんな川崎Fを全力に止めに行き、川崎Fもまた全力で攻めて守る。「楽しい」を出発点にしたそんな姿が、この厳しい時代のスポーツを照らすだろう。