上写真=素晴らしいJ1デビューを飾った中村拓海。これからが楽しみだ(写真◎FC東京)
「もうちょっとやりたかったです」
いい意味で体の力が抜けているようだった。気張らずにするするっと右サイドを駆け抜けていって、鋭いクロスを送り届ける。これがJ1初出場初先発とは思えない、ほどよい力の抜け具合が印象的だった。中村拓海、J1デビュー!
「緊張とかは特になかったんですけど、はじめから積極的にプレーできたのは大きかったかなと思います」と振り返ったように、やはり余計な力は入っていなかったようだ。6分にディエゴ・オリヴェイラからもらうとワンタッチで前に運び、そのまま右足でシュート。8分にはまたもディエゴ・オリヴェイラとゆっくり呼吸を合わせてから飛び出してスルーパスを引き出し、シュート気味のクロス。「自分は攻撃から入る選手なので、開始早々だったけどシュートを積極的に狙っていこうと」という2つの鮮やかなアクションであっという間に試合に入っていった。
最高のシーンは56分だったのではないだろうか。ディエゴ・オリヴェイラのパスミスが相手に渡ったが、すかさず寄せてペナルティーエリア近くで奪い、そのまま前へ。あとは触ればゴール、という高速クロスをDFとGKの間にきれいに通したのだ。しかしこれは、ニアの安部柊斗もファーの永井謙佑も体を投げ出しながら足に当てられず…。
「あれは(FC東京U-23で出場していた)J3でコーチと一緒に練習してきたボールだったので、自信を持って蹴ることができました。でも、トップで初めての試合だったので、たぶん自分からそういうボールが来るという信頼関係がまだそこまでなかったんだと思います。ああいうボールを入れられるということは見せられたので、次はそこをもっと要求できればいいと思います」
いわば名刺代わりのクロスになった。
軽やかに、ひょうひょうと駆け抜ける姿はスター性を感じさせる。FC東京のサポーターは背番号2がドイツのハノーファーへ移籍した「室屋成ロス」に見舞われているが、ここまですでに8試合に出場している中村穂高に加え、この中村拓海の出現を大いに楽しんでいるだろう。
「最初の15分は、久々の試合だったので息が上がったけれど、時間が進むにつれて慣れていきました。ちょうどその頃(63分)に交代になったので、もうちょっとやりたかったです」
「(室屋が移籍したことで)チームを背負って、という気持ちは正直、まだ自分にはぱっときていないです。J1に出て1試合だし、出場機会が増えて勝利に貢献できるようになってきたらそういう気持ちが芽生えるかもしれません。いまは自分のことで精一杯になっているので、自分のことができるようになってからチームのことができるようになりたい」
19歳の初々しさを残すものの、自分のことで精一杯だと認められる率直さは、自分をしっかり見つめることができている証拠でもある。
プレーでもメンタルでも、その真っ直ぐさこそが本当の武器になるかもしれない。