上写真=環境に早くなじんで活躍したいと話した熊川(写真◎BBM)
GMが評価するスピードとパワー
最近では、カテゴリーを1段、2段越えた一足飛びの移籍をする選手も少なくはない。昨季のJ1で優勝を経験した横浜FMでゴールマウスを預かった朴一圭は、前年にはJ3でプレーしていた。JFLのFC今治から期限付き移籍して、湘南ベルマーレでJ1デビューを飾った小野田将人もいる。だが、「さすがに地域リーグからJ1はないですよね」。そう言って熊川は笑った。
本来なら、新シーズンはJFLでプレーするはずだった。流通経済大学を退学して加入したいわきFCで、東北2部南、東北1部と、1年ごとに階段を上がってきた。全国地域サッカーチャンピオンズリーグも乗り越えて、JFL昇格をつかんでいた。
だが、1本の電話が22歳のサイドバックの運命を変えた。シーズンを終えた熊川に連絡してきたのは、柏レイソルU-18時代の恩師だった。横浜FCをJ1昇格へと導いた下平隆弘監督から、獲得する意思があることを伝えられたのだ。
突然、プレーする環境が大きく変わることになった。一方で、下平監督には、大きく変わった自分を見せることになる。
「上のカテゴリーでプレーするにあたって、フィジカルは間違いなく自分の課題の一つだった」と熊川は語る。だが、「日本のフィジカルスタンダードを変える」というスローガンを掲げて、90分間体力と走力で圧倒するサッカーを目指すいわきFCで、熊川も変化した。かつては「線が細い方だった」というが、今では横浜FCの服部健二ゼネラルマネージャーから「スピードとパワー」をストロングポイントに挙げられるまでになった。
さらに、いわきFCでプレーしたことで、内面も大きく変化したという。U-12からレイソル育ちで、「レイソルのサッカーが正解だと思っていた」というが、フィジカルの強さを前面に打ち出すいわきFCで、「サッカー観が大きく変わった」。自分が知らなかったサッカーに触れることで、「もしもレイソルでトップに上がったもののダメで、他チームに移籍しても、たぶん失敗していたと思う。いわきで違うサッカーがある、こういう考え方があるんだということと、それにどう対応するかを学べた」と、飛躍の準備は整っていた。
「下のカテゴリーから上がってきて、他の選手と比べてサポーターの期待値もそれほど高くないと思う」と話すが、サプライズを提供する可能性はある。今回の移籍自体が、“下剋上”の十分な証拠となっているのだから。
取材◎杉山 孝