高校3年生にとって卒業を控えた2月は、新年度から始まる新しいサッカー人生への準備期間と言えるが、その時期に公式戦に臨んだ3年生がいる。高校年代の選手やチームの物語を紡ぐ、不定期連載の第4回では、子どもの頃から興味を持っていた審判員の資格を取得し、卒業後もトップレベルを目指して活動していく島根県の高校生の思いに迫った。

上写真=島根県新人戦1回戦で主審を務めた佐野さん。翌日の2回戦では副審を担当した(写真◎石倉利英)

主審を「かっこいいと思って見ていた」

 2月2日に島根県の松江市営陸上競技場で行なわれた県高校新人戦の1回戦、松江北高-松江西高・情報科学高(合同チーム)。新年度に向けて1・2年生だけに参加資格がある大会で、1人の3年生がピッチに立っていた。出雲工高3年の佐野生昴(さの・いっこう)さんが主審を務めたのだ。

 スプリントを交えて足を使いながら両チームのプレーを追い、判定を下していく。負傷者が出たときは選手とコミュニケーションを取って様子を気遣うなど、的確なゲームコントロールを見せ、松江北が7-0で勝った試合をしっかり裁いた。

 幼稚園の年長でサッカーを始めた佐野さんは、小学生になると審判員に興味を持つようになった。ホイッスル、イエローカード、レッドカードなどの用具が「アイテムとして好き」で、両親に買ってもらったほど。Jリーグの試合も両チームのプレーより、主審が笛を吹いたり、カードを提示したりする様子を「かっこいいと思って見ていた」が、小学生のときは遊びで笛を吹いたり、カードを提示したりして楽しむだけで、実際に審判員を務めたことはなかった。

 中学に入学して1年生のとき、筆記試験のみで取得できる4級審判員の資格を取得。3年生になり、高校受験に備えてサッカー部の活動が終わってから「もっと審判員として活動したい思いが強くなった」佐野さんは、練習試合などで経験を重ね、進学した出雲工1年生のときに3級審判員の資格を取得した。

 サッカー部で左サイドハーフとしてプレーする一方、審判員としても活動。高校生が担当する県リーグの副審で経験を積み、3年生になった昨年夏の県3部リーグで初めて主審を務めた。公式戦デビューを「練習試合とは違う緊張感がありました。両チームの選手のために、しっかり判定したいという思いで気持ちが引き締まった」と振り返る。

 昨年12月には鹿児島県で開催された小学生の全国大会、JFA全日本U-12サッカー選手権大会で審判員を務めた。同大会は全国9地域から32人のU-18(高校生)審判員が選ばれ、佐野さんは3人が選出された中国地区の1人として参加。本大会2試合のほかにフレンドリーマッチも担当し、副審なしの1人制審判を務めて貴重な経験を積んだ。

 今回の県新人戦での主審を終えた後も、インストラクターから指導を受けた。現在の課題を「ディフェンスラインでパスを回しているとき、もっと前を見て次にボールが行く位置を予測し、ロングパスが出たときでもスタートを早く切れるようにしなければいけない」と認識しており、まだまだ勉強の日々だ。

 卒業後はIPU・環太平洋大(岡山)に進学し、高校時代と同じくサッカー部に所属しながら、審判員の活動も続けていく。島根県は現在、1級審判員が2人のみと少ないため、2030年に地元で開催される国民スポーツ大会(国民体育大会から2024年に名称変更)も見据えて若手審判員の育成が急務となっており、早くから活動を始めた佐野さんへの期待は大きい。

「経験、体力など、いろいろな面でレベルアップしていきたい。目標はJリーグの担当審判員になることです」と佐野さん。新年度からもサッカーに携わり、選手たちとともに素晴らしい試合を作り上げていくつもりだ。

取材・写真◎石倉利英


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