上写真=オマーンにボールを支配されながらも無失点で終えたタイ。勝ち点1を手にした(写真◎AFC)
元旦の日本戦がちょっとした成功体験に
石井正忠監督率いるタイ代表は、賢く戦った。オマーンにボールを支配され、とくに後半は自陣でプレーする時間が長くなった。それでも相手の拙攻と、190センチ超えの2センターバック、エリアス・ドラ&パンサ・ヘーミボーン、さらにGKパティワット・カマイを中心とした堅守で対抗。最終的なボールポゼッションではオマーンが70%を記録したが、最後まで集中を切らすことなく守り切って勝ち点1をつかみ取った。
「オマーンに対して、簡単にはいかないというところで、最終的には勝ち点1を取りにいくという形に切り替えた。そういうゲームを選手も理解してくれてしっかり90分戦ってくれたのが非常に良かった」
注目すべきは、試合途中で勝ち点1狙いにうまくシフトしたことだ。石井監督は「選手が理解してくれた」と表現したが、元来、攻撃志向の強い選手が多い中で、試合途中からとはいえ、守備重視でプレーさせるのは難しいタスクだったはずだ。だが、就任以来、石井監督は守備のトレーニングを積み、意識付けもしっかり行ってきた。守備力向上のポイントについて指揮官はこう説明した。
「まずはトレーニングすることが一番大事で、そこは回数を多くやっています。それともう一つ、これだけ短い期間でこういう意識になれたっていうのは、元旦に行われた日本代表戦で前半、あれだけ攻め込まれながらもしっかり守備ができたことが(大きかった)。本当にあの試合は選手たちはちょっとした成功体験になっているので、それがきっかけにはなっているのではないかなと」
象徴的だったのは終盤に訪れたCKの場面。石井監督はピッチサイドから指示を送り、ゴール前に行こうとした選手をその場に留まらせた。相手のアタッカー1人に対して、3人の選手をハーフウェーライン付近に残し、相手のカウンターを警戒させるという念の入れよう。無理に攻めて逆襲を浴び、失点するような事態を徹底的に避けた。果たしてタイ代表は、勝ち点を伸ばすことに成功した。
他会場で3時間遅れで行われたキルギス対サウジアラビアは、2−0でサウジが勝利を収めた。この結果、グループFの順位は、首位が勝ち点6のサウジアラビア、2位が勝ち点4のタイ、そして3位が勝ち点1のオマーン、4位が勝ち点なしのキルギスとなった。
次戦でタイは首位突破かけてサウジアラビア戦に臨むが、この日の賢い戦いぶりによってラウンド16進出に大きく前進したと言えるだろう。何より試合終了直後に選手とスタッフが笑顔で握手を繰り返したタイ代表のベンチの様子が、手にした勝ち点1の価値を表していた。
取材◎佐藤景