アルゼンチンは9日、準々決勝でオランダをPK戦の末に破り、ベスト4進出を決めた。難敵相手に1ゴール1アシストと気を吐き、勝利に貢献したのがリオネル・メッシだ。ボールを持てば何かを起こすナンバー10は、PK戦でも一番手に登場し、成功。チームをベスト4に導いた(オランダ 2-2【3PK4】アルゼンチン)。

上写真=ベスト4進出を決めたメッシが歓喜の表情を浮かべる(写真◎Getty Images)

現代サッカーの枠の外で異彩を放ち続ける

 走らない。守らない。それどころかピッチ上をフラフラと漂うように歩いている。ハードワークとは全くの無縁で、ピッチ上の22人のうち、おそらか彼だけが現代サッカーの枠組みかだはみ出していた。

 この試合でもそうだった。歩いたり、漂ったり。ボールが来ないと感じるや自由に持ち場である2トップの一角から下がってビルドアップに加担。ボールに触れて自分の中でリズムをつかんでいく。攻守が切り替わり、届く距離にいるときは相手にプレッシャーをかけるが、それも数えるほど。ピッチ上を不規則に徘徊してみせる。

 でも、ボールを持てば他の選手とは別格の輝きを放つ。この日もそうだった。

 前半35分、自陣でボールを回収したアルゼンチンは右ウイングバックのモリーナがそのボールを受け取り、前進を開始する。ハーフウェーラインを過ぎたあたりはコースを内側に取ると、フォローに来たメッシがパスを受ける。そこから、圧巻のプレーが始まった。

 マーカーを引き連れてゴール中央へ向かって斜めにドリブルを開始。相手に飛び越せないように細かいステップと緩急織り交ぜたドリブルをしながら前進する。

 そのとき、メッシの前方に味方が2人いた。一人はペナルティーアーク付近にいたFWアルバレス。そしてもう一人がメッシのパスを出したあと右から斜めにボックスへと走り込んでいたモリーナ。

 角度的に言えば、ボックス手前にいるアルバレスにボールを通す方が簡単だったかもしれない。しかしメッシは難しい方を選択する。走り込んでいるモリーナの足もとにボールを届けた。相手GKが出るに出られない絶妙なタイミング。そのときオランダ選手が周辺に5人いたが、まさかメッシからパスがモリーナに出るとは思わなかったのではないか。

 メッシから届いた極上のパスをモリーナがプッシュして、アルゼンチンが先制。会場をほぼ埋め尽くしたアルゼンチンサポーターから大歓声が上がったのは言うまでもない。

 後半に入ってもメッシは歩き、漂い、時々輝くを繰り返しながらチームをリードしていく。63分には相手CBファンダイクに倒されて得た直接FKをメッシが自らが狙う。ボールはゴール右上のバーをかすめ、わずかに枠を外れたが、惜しい場面だった。

 そして71分、左サイドを駆け上がったアクーニャがボックス内で倒され、アルゼンチンはPKを獲得。オランダ守備陣がレフェリーに抗議している中、メッシはボールをセットして静かに再開を持った。そして身長203センチのオランダのGK、ノペルトが威嚇してもまったく動じず、タイミングを外して冷静にゴール左に蹴り込んだ。GKは一歩も動けない完璧なキックだった。

 アルゼンチンがこのまま押し切るかと思われたが、オランダも粘り、後半アディショナルタイムのFKの場面でトリックプレーから同点に追いつく。試合は延長戦戦、さらにはPK戦までもつれ込んだ。

 オランダのキャプテン、ファインダイク失敗したあと、アルゼンチンの一番手のキッカーをメッシが務めた。そしてGKの逆を突き、しっかり成功。このキックがその後の流れをつくったと言ってもいいだろう。チームに落ち着きを与える、自信にあふれた冷静なキックだった。

 この試合が行われる前、別会場の試合でブラジルがPK戦の末にクロアチアに敗れた。大会のスタートから好調で、初戦で負ったケガからラウンド16のタイミングで復帰したネイマールが均衡を破る鮮やかなゴールを決めたが、追いつかれ、そして散った。

 一方で大会初戦でサウジアラビアに不覚を取り、戦力に疑問を持たれていたアルゼンチンはメッシを中心にまとまり、しぶとく勝利を重ねて、オランダをPK戦の末に撃破。メッシ依存ではなく、メッシ共存と模索しつつ、ついに4強に勝ち上がった。

 年齢を考えれば、メッシにとって今大会は代表キャリアの集大成だろう。数々の実績を積み重ねたメッシはすでにそのタイトル歴でアルゼンチン国民が神と崇めるマラドーナを超えているという指摘もある。安易な比較論を本人は嫌うが、その一方で多くの国民がマラドーナと同様に、メッシがアルゼンチンをワールドカップの頂点に導くことを期待している。ワールドカップを掲げたとき、メッシは他の誰でもないメッシとして、マラドーナに並ぶ存在になる。

 激闘の末にオランダを破り、次はベスト4。メッシが神に並ぶまで、あと二つーー。

取材◎佐藤 景


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