アフリカに巣食う死角
いったい、どこまで勝ち進むのか。そんな期待が渦巻く中、冒険は突然、終わりを告げる。
0-1。
スウェーデン戦に続く延長戦で交代出場したトルコの刺客イルハンのゴールデンゴールに沈んだ。トルコを上回る7本のシュートを放ったが、最後までネットを揺らすことはできなかった。
連戦による疲労からか、動きに精彩がなく、個人技に走ってミスを繰り返す悪循環に陥っている。長くアフリカ勢に付きまとってきた悪癖が顕在化し、コレクティブな集団ではなくなっていた。
セネガルを「アフリカのフランス」へと押し上げた組織力を失ったら、どうなるか。4強への壁を越えられないアフリカ勢の病巣が見て取れた。
それは、3-0から追いつかれたウルグアイ戦で予告されていたことかもしれない。ビエラに匹敵する「怪物」を擁する反面、苦境の中で味方を鼓舞し、勝負を諦めないディディエ・デシャンのような「闘将」がいなかった。
多様な人種や民族で構成され、それぞれの長所がそれぞれの短所を補う強みを持たない。その点において、フランスとは似て非なる集団だったか。
もっとも、そのことがサッカー史に残るジャイアントキリングを成し遂げたセネガルの快挙を貶めるわけではない。闘将こそいなかったものの、順境における組織力は従来のアフリカ勢をはるかにしのぎ、本家にも決して見劣りしないハイレベルのものだった。
フランスのトップリーグで揉まれ、フランスのすぐれた指導者に学び、限りなくフランス化する。全世界をあっと言わせた開幕戦は「獅子の恩返し」だったか。
なお、偉大なる世界王者を破った5月31日は、ほどなくセネガルの「祝日」となった。
著者プロフィール◎ほうじょう・さとし/1968年生まれ。Jリーグが始まった93年にサッカーマガジン編集部入り。日韓W杯時の日本代表担当で、2004年にワールドサッカーマガジン編集長、08年から週刊サッカーマガジン編集長となる。13年にフリーとなり、以来、メディアを問わずサッカージャナリストとして活躍中。