鉄壁のディフェンス
1点をめぐる僅差勝負に強いのがイタリア――。決勝トーナメントに入ってからの戦いぶりもウノゼロ(1-0)の伝統的なイメージそのものだった。
まず、1回戦は伏兵オーストラリアに1-0、準々決勝は初出場のウクライナに3-0。初戦からの5試合で、実に4つのクリーンシート(無失点)を記録した。
1点取れば、負けない計算だ。守護神のブッフォンと最終ラインの支柱となったF・カンナバーロの働きは神がかっていた。
特にオーストラリア戦が、そうだ。0-0で迎えた50分、今大会初先発のマルコ・マテラッツィが痛恨の一発退場。10人で戦う窮地に陥ったが、ここからF・カンナバーロの凄みが際立った。
地上戦でも空中戦でも、まさに敵なし。危険なエリアに先回りする察知力に加え、驚異的な跳躍力をもって176センチという体格的なハンディを少しも感じさせなかった。この日のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたのも当然か。
チェコとの第3戦で相棒にして大駒のアレッサンドロ・ネスタが負傷交代し戦線を離脱。それでもアズーリのディフェンスは、いささかも崩れなかった。
「ディフェンスさえ安定すれば、チーム全体が安定する。僕らはその力を証明している」
ウクライナ戦の後、鉄壁のディフェンス陣を支えるキャプテンは誇らしげに語った。32歳。ベテランの域に達してなお、八面六臂の大活躍は最盛期のままだった。
そして、準決勝でもホスト国のドイツを完封。延長を含む120分間、ドイツのアタック陣にほとんど仕事をさせなかった。
今大会の出色のパフォーマンスが認められたF・カンナバーロは同年暮れにバロンドール(ヨーロッパ年間最優秀選手賞)を手にすることになる。ディフェンダーの受賞は、あの「皇帝」フランツ・ベッケンバウアーやマティアス・ザマー(ともにドイツ)に続く3人目の快挙だった。
疑惑の人から英雄へ――。そのF・カンナバーロを含め、防御のイロハを知り尽くした職人たちに支えられるアズーリは頂点に近づくにつれて難攻不落の要塞と化した。そして1994年アメリカ大会以来、12年ぶりのファイナルへ。通算4度目の世界制覇に向けて、チームの結束は深まっていた。
希代のレジスタ
鉄壁のディフェンスとは対照的に、オフェンスは決め手を欠いていた。リッピの数少ない誤算と言ってもいい。
大砲のルカ・トニはポスト役として機能した反面、肝心のゴールは準々決勝の2点のみ。勝負を決める点取り屋としては物足りない出来に終わっている。強力な決め手として歴代のアズーリを支えてきたルイジ・リーバも、パオロ・ロッシも、ロベルト・バッジオもいなかったわけだ。
アズーリの前線と言えば、伝統的に『弁慶と牛若丸』の組み合わせ。今大会ではトニが弁慶、フランチェスコ・トッティが牛若丸の役回りに近い。
もっとも、リッピが「唯一無二のユニークな存在」と期待を寄せたトッティも、オーストラリア戦のPKによる1点のみ。一瞬にして敵の裏を突くワンタッチパスで創り手となったものの、決め手にはなり得なかった。
結果、アズーリのスコアラーは大会最多記録に並ぶ10人に分散されている。うち5人は途中出場のメンバーだった。リッピのすぐれた勝負勘の成せる業か。
ゴールの筋書きは速攻とセットプレーの二本立て。その両面を支えるキーパーソンがアンドレア・ピルロだった。
イタリアで言うところのレジスタ(司令塔)がその役回り。かつてのジャンニ・リベラやカルロ・アントニョーニの列に加わる中盤のファンタジスタが、攻めを一手に引き受けていた。
ダイレクトに相手ゴールへ迫るアズーリ伝統の速攻を、ピルロはたった一本のパスで実現してみせる。敵の最終ラインの背後へ球を落とすブレイクパスだ。
ガーナとの初戦から、ピルロを始点にした「裏一発」の電撃戦にアズーリの狙いが凝縮されていたと言ってもいい。
相手が最終ラインを下げ、背後のスペースを消せば、球をワイドオープンに散らして、サイドからの切り崩しへ移行する。攻撃のすべては、羅針盤たるピルロのさじ加減一つだった。
準決勝でも再三、浅いラインの背後を突いてドイツ守備陣を疲弊させた。そして、延長戦では敵の虚を突くスルーパスを繰り出し、ファビオ・グロッソの先制点をお膳立て。この日のマン・オブ・ザ・マッチにも選出された。
今大会、トッティが相手の厳しいマークに苦しんだ分、ピルロの働きが際立った。中盤の深い位置から正確に標的を射抜くイタリアの「ロビン・フッド」は、続く決勝の舞台でも堂々とピッチに君臨することになる。