9月に始まるワールドカップ・アジア予選の準備試合と位置付けられている今回の6月シリーズ2連戦。その初戦となったトリニダードトバゴ戦は、スコアレスドローに終わった。同試合で日本代表は森保一監督就任以来、初めて3バックを採用。その狙いとは? そしてこの新フォーメーションの可能性は? 

上写真=森保監督は就任から15試合目で初めて3バックを採用した(写真◎早浪章弘)

■6月5日 キリンチャレンジカップ2019
日本 0-0 トリニダード・トバゴ

実質2日間の練習でトライ

 森保ジャパンは昨年9月のスタート以来、一貫して4バックで戦ってきた。だが、立ち上げから15試合目となったトリニダート・トバゴ戦で初めて3バックを採用した。かねてより「一つの戦い方だけでは世界のトップとは戦えない。チームとして柔軟性を持つことが必要」と森保監督は話しており、新たなオプションづくりがその狙いだった。

 トリニダードトバゴ戦で採用した3-4-3(3-4-2-1)という陣形は、広島時代に3度J1を制した指揮官の代名詞と言っていいフォーメーション。実際、兼任にする東京五輪世代の代表ではほぼ一貫して、この陣形で戦っている。

 試合後の会見で森保監督はその意図について改めて説明した。

「これまでも毎回試そうかという思いは持って活動してきましたが、まずスタートでの形を安定させ、4バックをベースとすることでより多くの選手に吸収してもらいながら、戦術理解してもらいながら次のオプションを試すときが来ると思っていました。それが今回のタイミングになったと。9月からワールドカップ予選が始まりますが、それまで活動がなかなかない中で、ここで(3バックを)試して、選手が感覚的に覚えてくれれば、またオプションとして使えると」

 実質2日間の練習でトライしたのだから、いきなり満点回答はあり得ない。ただ、試合後のミックスゾーンでは選手が課題を挙げるのと同時に、前向きな言葉を口にした。おおむね、ファーストステップとしては手応えがあったという。

 3バックの右CBを務めた冨安健洋はこう言った。

「思っていたよりも悪くはなかったというか。悪いときの5バックは押し込まれて後手、後手でうまくいかないときがある。僕もアビスパ(福岡)のときに5バックをやっていて、よくないときは押し込まれてロングボールで単調になってしまってっていう経験がある。(きょうの試合は)最悪のケースではなかったと思います。ある程度、前から行くときにはいけたし、縦パスのところもプレッシャーをかけるところはかけられた。本当にポジティブに先につながる試合だったと思います」

 左CBの畠中槙之輔の感触は、こうだ。

「守備的には良かったのかな、と思います。攻撃に関しても昌子(源)くんのところからも良いボールが出ていましたし、僕もトミ(冨安)も前に参加できるときは参加して、前線へのパイプ役になれたので、そこは良かったと思っています」

 3バックの中央でプレーした昌子、そして右のウイングバックで幅と推進力を生むべくプレーした酒井宏樹もポジティブだった。

「オプションがあったら強いと思うし、4バックも3バックもできれば強い。試合途中で変えられたらいいと思います」(昌子)

「もちろん代表戦なので勝利というところにはこだわらないといけですし、そういう意味では歯がゆい結果になりましたけど、オプションの一つとしては過去の3バックよりも、手ごたえはあったほうかなと思います」(酒井)

 キャプテンマークを巻いた柴崎岳は「初めて3バックにトライして、比較的うまくいったと思います。もうちょっとうまくいかないと思っていたので」と、想像していたよりも良い面があったと語り、探り探りな面がありながらも「うまくいかない部分はあまり見当たらなかった」とゲームを振り返っている。

 もちろん、いずれの選手も「初めて3バックにトライした割には」という前置きがあってポジティブな面に言及している。だから同時に課題や修正点についても、しっかりと触れた。

間延びした陣形では攻めも守りも難しい

 森保監督がこの試合でフォーカスしていたのは、攻撃面ではビルドアップの部分、守備面ではこれまでとバランスが異なる中でいかに相手にプレッシャーをかけていくかという点だった。

 GK、3バック、そしてボランチでボールを動かし、高い位置で幅を取るウイングバックを生かしていくという攻めの意図は感じられた。しかし、ウイングバックが敵の守備を広げても、いい形で縦パスが入らず、楔のパスを受ける大迫勇也へのサポートも遅れがちのため、なかなか攻撃に厚みが出なかった。相手の5倍となる25本のシュートを放ったが、遠目から狙ったものも多く、ついぞネットを揺らすことはできなかった。

「時間が経つにつれて、だんだんディフェンスラインと真ん中が間延びして、自分たちもラインを押し上げられずに、相手の時間帯になるときがあった。そこはもっとコンパクトに、引くのか、前から行くのかを話して、相手のペースにさせないように、やらないといけない」

 畠中の指摘通りで、全体が間延びした結果、シャドーのサポートが遅れ、ボランチのサポートもままならず、大迫を何度も孤立させることになった。それでもボールを収めてしまう大迫はさすがだったが、そのあと手詰まりになることも多かった。ボランチの守田英正は「前線の状況が整っていないところでボールを前に入れてもよくない」と話し、「ドリブルで持ち上がったり、前に入れるタイミングをつくってもよかった」と反省の言葉も口にした。

 全体をコンパクトに保ち、1トップ+2シャドーが良い距離感でプレーできる状況をつくることがまずは必要だろう。縦パスの入れどころをチームで共有することもポイントになる。

「前半はある程度、行けていたと思います。でも、後半に入ってから少し押し込まれるというか、5バック気味で前に押し出せなくなった時間帯がありました。でも、90分通してずっと前から行くことは不可能ですし、そこのメリハリは大事になってくる。時間帯だったり、流れを見て自分たちで判断するところだと思うので、みんなで話ながらやっていくしかないと思います」

 冨安も、畠中と同様に「間延び」を修正点に挙げた。初めてのフォーメーションで、これまでとは違う形で相手へプレッシャーをかけなければならなかったが、間延びしたことで難しさはさらに増してしまった。守備面からも間延びを是正することは重要だ。

 3バックの初めての採用は、可能性を感じさせたものの、まだ運用の目途が立つほどではない。あくまでファーストステップを踏んだ段階での印象。

「招集する選手は毎回、何人か変わりますが、戦術的にはこれまでの活動の中でスムーズに来れていたので、急いで次のオプションを作るよりも、ベースのところを固めながらオプションを作っていければと思っていました。4バックと3バックのどちらがベースになるかは、現段階ではA代表は4バックかなと思っています。ただ、選手にも話しましたが、3バックにしても4バックにしても、われわれがやろうとする戦い方の原理原則は変わりません。そこは必要以上に難しく考えないようにトライしていこうということで、今日の試合には臨みました」(森保監督)

 オプションにできるかどうは今後も、機を見て行なうであろうテストの結果次第になる。言えるのは相手によって戦い方を変えられるという、指揮官が求めるチームになるには、必要な要素であるということ。試合途中でさえ、状況に応じて変わることを要求される時代だ。世界と伍していくために、今後もトライは続けるべきだろう。

取材◎佐藤 景 写真◎早浪章弘


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