上写真=カタールに敗れた日本。吉田主将は「自分自身が未熟だと感じる」と話した(写真◎福地和男)

■AFCアジアカップUAE2019 決勝
 日本 1-3 カタール
 得点=(日)南野拓実、(カ)アリ、ハテーム、アフィーフ

 2月1日、アブダビのザイード・スポーツシティ・スタジアムでアジアカップ決勝が行なわれた。5度目の優勝を目指した日本はカタールに1-3で完敗。準優勝に終わった。準決勝でイランを圧倒する素晴らしい戦いを見せながら、なぜ日本は前半から後手を踏み、敗れることになったのか?

中盤の中央で起こったミスマッチ

 今大会を通して日本が高めてきたのは、ピッチで起きていることに「対応する力」と「修正する力」だった。森保一監督も選手自身が考え、即座に対処することを求めてきた。だが、大一番で、その力を発揮することができなかった。

 トップの位置から下がって中盤に顔を出すアフィーフを捕まえきれず、そしてアンカーのマディボにもボールを易々と持たせてしまった。誰がアフィーフを見張り、誰がマティボに付くのか。そのあたりが整理されぬまま試合は進んでいった。ボランチが引っ張り出されて中央を空け、そのスペースを相手に使われる場面も散見。「最初から選手がトップギアでアグレッシブにプレーできる働きかけが足りなかった」と森保監督は語ったが、立ち上がりからカタールにペースを握られてしまった。

 そして12分、左に流れたアフィーフにクロスを上げられ、エリア内でアルモエズ・アリにボールを収められる。背後に吉田麻也が付いていたものの、華麗なバイシクルキックでゴールを割られた。

 中盤の中央エリアで数的不利な状況に陥っているのは、ピッチ内の選手たちもベンチの選手たちも、もちろん指揮官も分かっていた。だが、その修正が遅れてしまう。1失点目で混乱していたのか、プレスがはまらない状態を改善できず、27分にカタールに2点目を決められる。マディボからアフィーフを経由して、塩谷の背後のスペースへ進入を許したハテームにパスをつながれてしまう。吉田が寄せるよりも一瞬早くハテームにシュートを打たれ、ネットを揺らされた。

「プレスのかけ方がはまらなかったことと、やっぱりボランチの脇で11番(アフィーフ)を誰がつかむのか、19番(アルモエズ・アリ)とうまく入れ替わるところを誰がつかむのかで1点目も2点目も1回、そこを起点にされて失点していますし、臨機応変さが足りなかった」

 吉田はそう言って、2つの失点場面を振り返った。この日、終盤に途中出場することになる乾貴士も、左太腿裏の負傷で欠場した遠藤航も、ベンチからピッチ内で起こっている混乱した状況を感じ取っていた。

「(日本の)2トップが3バックを見ちゃっていたので、それだと絶対にハマらないので、そうではなくて、(原口)元気と(堂安)律がもうちょっとウイングに付くのではなく、CBを見る。牽制するでもいいですし、べったり付く必要はないですけど、そこでFWを助けてあげないと、絶対にああいう感じになっちゃうので。それは見ていて分かっていたんですけど、外から指示も出せなかった。でも、もっと言うべきだったかなって。2失点目の前にもっと言っておけばよかったという後悔もあります。ベンチメンバーも含め、そういうところが甘かったという感じがしますね。(アンカーのハテームは?)あれを(南野)拓実が見るっていう。CBの真ん中か、どっちかをサコ(大迫勇也)とが見るっていう形を取らないと。そうなると、相手も厳しくなって蹴ってくるので、後ろも(ボール奪取を)狙いやすくなる。あそこまでフリーで後手後手に回った状態だとやっぱり技術もある相手なので、そういうところで、かなり厳しくなっちゃっていた」(乾)

「前の選手(アリ)とシャドーの選手(アフィーフ)がうまくローテーションしながら裏に抜けたり、下りてきたり、そこへ縦(パス)をけっこううまく入れてきていたので、どっちかというとシャドーが抜けてくるのに対しては、CBに受け渡せればよかかったですし、ちょっと流れた選手に対してボランチが付いていきすぎて真ん中を空けちゃうシーンが何回かあって。そこは少しずつ修正はできていたと思うし、ハーフタイムもそのへんは話をしたら、ボランチの選手は分かっていたので、後半はうまくやっていたと思いますけど」(遠藤)

 プレスが空転する状況が続く中で2失点をしてしまい、日本は劣勢に立たされた。そしてその差を詰めることができないまま、前半45分を終えた。

追撃後のPK献上で勝利が遠のく

 後半、南野がハテームをマークし、サイドハーフがやや中に入って相手の左右のCBを見張ることで、日本のプレスが機能し始めた。相手はボールの逃がしどころが無くなり、攻撃が停滞。日本はボールを即座に回収し、二次攻撃、三次攻撃につなげていった。ただそれでも、ゴールは遠かった。相手の分厚い守りをなかなか崩せなかったのだ。 

 ようやくゴールが決まったのは、69分。塩谷司が鋭い縦パスを大迫に入れると、南野へとつながり、中央から相手守備を崩し切ってネットをゆすった。圧倒的に攻め込みながらなかなかこじ開けられなかったゴールを奪い、1点を返す。待望の得点によって、一気に流れが日本に来るかと思われた。実際、選手もチームの勢いを感じていたが、次に生まれた得点は日本の同点ゴールではなく、カタールの追加点だった。

 80分過ぎ、相手CKをエリア内で吉田が相手と競り合いながらヘッドでクリア。ボールはそのままエリアの外へと流れたが、直後にVAR判定が行われ、吉田のハンドが判明する。相手にPKを献上することになってしまった。キッカーのアフィーフは、GK権田修一が飛んだ左とは逆の右側へ、きっちりボールを蹴り込んだ(82分)。

「立ち上がりから入りが良くなかったので。最低でも1失点に抑えて、後半盛り返す形を作らないといけなかったと思います。後半、よく1点返して、勢いに乗ってもう1点取ればというところで3点目を取られてしまったのは非常に大きかった。個人的にも3失点ともに全て自分のところでやられているんで」

 吉田の指摘通り、日本が攻勢に出ている時間帯に、3失点目を喫したのは痛かった。結局、最後まで日本は攻め続けたが、2度目の追撃ゴールは生まれず、試合はそのまま決着する。

「前節イラン戦ですごくいいパフォーマンスを出して、この試合にのぞんで、この流れ行けるだろうっていう油断やスキみたいなものを僕自身がチームの中で少し感じてたのにも関わらず、それを律することができなくて、勝ちに導くことができなかったという自分の不甲斐なさを自分自身がすごい不甲斐ないです」(吉田)

 3失点は吉田のせいばかりではないが、キャプテンという大役を引き受け、ここまでチームを引っ張ってきた選手が最後に味わうにはあまりにも酷な結末だった。

2失点後の遅すぎた修正

 選手たちが敗因として指摘したのは、やはり前半の2失点だった。プレスが空転する、陣形のミスマッチが起きていると分かりながら、即座に修正する力までは、まだなかった。決勝に至るまでの6試合ではピッチ内で起きている状態を選手たちが即座に理解し、対応していくことができた。ともすれば、その自信が、複数のシステムを使い分けるカタール相手にも「出方を見る」という選択をとらせたのかもしれない。

 しかし、出方を見た結果、日本は後手を踏み、ペースを握られてしまった。そして修正できたのは2失点したあと。指揮官は敗因をこう分析した。

「試合が始まってから、ミスマッチが起こる中、そこをかみ合わせがうまく行かない序盤の時間帯で失点してしまって、難しいゲームになったと思っています。そういった意味では、カタール戦に対して5バックというか、3バックでやってくる相手であることも想定に入れながら準備をしてきましたが、選手が思い切ってプレーできる状態に準備できなかった自分の責任。試合の途中から、相手の形にもある程度合わせながら、我々が攻撃に圧力をかけていけるように、そこは徐々に出来てきた感と思いますが、2点失点してしまうと難しい展開になるという試合だった。1-2にしてくれたところは、その後同点にできるというチャンスは作れたと思いますが、相手も強固な守備ができるチームなので、難しい展開と結果になってしまったと思います」

 指揮官と同様に、選手たちも反省の弁が口をつく。

「いろんな情報があって、4-4-2、4-3-3で来るのか、3-5ー2で来るのかとか、その中で自分たちのゲームプランとしてしっかり前からプレスをかけるという、いつも通りの(狙いが)あったんですけど、相手のシステムにうまくハマらなかった、最初は。途中から変えたんですけど、2失点目の後だったんで。サコ君(大迫勇也)が言った通り、それまでに最低でも1失点した後に自分たちで中で守り方を、サイドハーフももうちょっと上げて、僕がアンカーのところにマンマークで、という戦い方に気付いてやれればよかった」

 今大会初ゴールを挙げながら勝利に導けなかったことに悔しさをにじませた南野はこう言った。南野のゴールをアシストした大迫も同様の見立てだった。

「相手が4バックか5バックかどっちで来るか分からない状況の中で自分たちが後手を踏んでしまったのは事実ですし、そこは本当に反省しないといけないかなって。経験のある選手がもっと試合の中で変えるべきだったと思うし、そこは、申し訳ない気持ちもあります。修正はできたんですけど、0ー2になってからだったので遅かったとは思います。それは僕自身、前の選手で経験がある中で言えなかったことにすごく後悔があるし、悔しさもある」

 立ち上げから5カ月。未完成のチームであるのは間違いないが、指揮官が求めてきた部分、強調してきた部分がまだまだ足りないことを、最後の最後に決勝で痛感することになった。
 この悔しい敗戦を、いかに今後につなげていくか。敗戦を受け入れ、さらなる成長のために、浮き彫りになった課題に取り組んでいくよりほかない。

「この負けからまた進まないといけないし、次はコパ・アメリカとワールドカップ予選があるんで、もう1回、立ち上がっていかなきゃいけないですね。こういう大きな大会が終わった後、かなりエネルギーを、前に進むエネルギーってのは非常に大事になってくるんで、ここでチームとしてダメになるのか、ここから学んでまた這い上がって強くなっていくのかは自分たちは次第だと思います」

 吉田の言葉だ。次なるステップに進むのは自分たち次第。敗戦からいかに学び、現実を受け入れて成長できるかが重要だ。未完成のチームで手にしたアジアカップ準優勝という結果を、より意味あるものにするためにも。

取材◎佐藤 景 写真◎福地和男


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