上写真=58分、59分と辻の2発で一時は盛岡を逆転したYS横浜だったが…(写真◎J.LEAGUE PHOTOS)
盛岡が逆転で4試合ぶりの勝利を挙げた。YS横浜に押される展開ながら、相手のミスを突いて速攻で先制。しかし後半にPK献上など2点を立て続けに奪われて逆転を許す。それでも小谷光毅がFKを直接決め、交代出場の谷口海斗が得点と再逆転に成功した。
一方、敗れたYS横浜も、一人の選手が輝きを放った。開幕前にケガを追って長らく苦しんできた背番号10。辻正男だ。
■2018年11月11日 J3リーグ第31節
YS横浜 2-3 盛岡
得点者:(Y)辻正男2
(盛)嫁阪翔太、小谷光毅、谷口海斗
成長を続ける31歳
一度は逆転した。今季初の1試合2得点だった。それでもYS横浜の辻正男は「まだゴールが勝ちにつながっていないので」と自分に合格点をつけることはなかった。
10試合出場で5得点。今季残しているこの数字には、いろいろな思いがこもる。
今季から背番号10を託されたFWを悲劇が襲った。開幕を1カ月後に控えた2月上旬、練習試合中に負傷。左足アキレス腱の断裂で、全治7カ月と診断された。
昨季はJリーグの舞台で初となる2ケタ得点を記録。自分も周囲も期待を高めるなかでの負傷は“痛手”だったが、一つの思いを胸に復帰への努力を続けた。「もっとうまくなりたい、成長したい。そういう気持ちがないと、リハビリも頑張れません」と苦しかった時期を振り返った。
法政大学卒業後に入団したYS横浜で、仕事をしながらサッカーを続けた。JFLに昇格した2016年には20得点と大爆発。翌年には鳥取に招かれ、金沢でもJ2を経験した。
J2では思うような結果を残せなかったが、古巣に戻った今も上を見据え続ける。今年3月で31歳になったが、「まだまだやれることを増やしたいし、うまくなっていると感じるます」。横浜で3つのJクラブを率いてきた樋口靖洋監督も、同じく30代のMF小澤光とともに辻の名前を挙げて、「この3年間で随分変わった。変われる力を持っている選手は、年齢に関係なく変われるということを学ばせてもらった」と、その姿勢を称賛する。
「アキレス腱を切った後に瞬発力が戻らず、完全復活できない選手もいると聞いていた」という不安を、努力で杞憂に変えた。この日も積極的に仕掛けて、58分には自ら獲得したPKを沈め、その1分後には縦への抜け出しからと、立て続けに2点を決めて一度は試合をひっくり返した。
2点目を決めた後、辻はベンチに向かって猛然とダッシュし、樋口監督に抱きついた。「監督が来てからの3年間のうち2年間は大きなケガをして、シーズン通してプレーしたのは去年だけでした。それでも信頼して使ってくれています。その期待への感謝、それにトレーナーにも感謝の気持ちを伝えたかった」。サッカーができる喜びが、体からあふれていた。
2点目を決めた2分後にも、ゴール前でクロスにうまく合わせたヘディングがポストを叩いた。「あのヘディングも決めたかったのですが…」。逆転の歓喜は、再逆転の悔しさで吹き飛ばされた。これで自らが得点した4試合は、1分け3敗という結果。本当の笑顔は、まだ取り戻せていない。
今季は、残すところあと3試合。樋口監督の今季限りでの退任も決まっている。「ゴールを勝ちにつなげたい。それが、今シーズンのうちにクリアしたい点ですね」。復活のストライカーは、まだまだ走れる。
取材◎杉山孝 写真◎J.LEAGUE PHOTOS