ブラジル
ジェズスは今大会の注目タレントのひとり。中盤を支えるカゼミーロも代えの利かない存在だ(写真◎Getty Images)
組織的な守備の安定感は超一級品
自国開催だった4年前のブラジル大会では準決勝でドイツに惨敗。6度目の優勝を逃したブラジルは、南米予選でも当初は大苦戦。当時の指揮官、ドゥンガのもと、一時は大陸間プレーオフ出場権にさえ手が届かない6位に転落したが、2016年6月に就任したチッチがセレソンを蘇らせた。 「ネイマール依存症」とやゆされた近年の悪癖は、特定のスターに頼らないチッチ監督の手腕で払拭。ネイマールやマルセロら世界的なスターの個を生かしながらも、チーム全体のハードワークを徹底。前線からのプレッシングをベースに、近年のブラジルでは例を見ないコレクティブなチームを作り上げた。 ロシア大会でも優勝候補の一角で、要所にワールドクラスのタレントをそろえる。守備の安定感は超一級品だ。チッチ監督の就任後、南米予選では12試合でわずか3失点。チーム作りは順調で今年2月にチッチ監督はロシアの地を踏む15人の名を明かし、サブメンバーも各ポジションで充実するが、泣き所はサイドバックの控えが物足りないことか。 チッチ監督の就任後に代表入りしたガブリエウ・ジェズスが負傷後、やや調子を落としているのが気がかりな上、大黒柱のネイマールも右足中足骨の骨折で3月に手術。ネイマール不在でも3月の親善試合ではロシアに3-0で快勝するなど、その実力は 本物だが、やはり、「エクサカンペオン(6度目の王者)」を果たす上でネイマールは不可欠な存在だ。 世界屈指の個と欧州勢に引けを取らない組織力を身につけたセレソンが4年前の雪辱を期す。
文◎下薗昌記
スイス
右サイドバックのリヒトシュタイナーを筆頭に、いぶし銀の活躍を見せる実力者が多いスイス(写真◎Getty Images)
結果を求めるどん欲さはピカイチ
4大会連続の出場。強国とは呼べないが、常連国の仲間入りを果たしたと言っていいだろう。サラエボ生まれのペトコビッチ監督は、13年にイタリアのラツィオを率い、国内カップのコッパ・イタリア優勝に導いた実績を持つ。百戦錬磨の指揮官はチームの和を何よりも重んじており、代表の結束力は強い。
欧州予選の最終節ではポルトガルに零封負けを喫し、プレーオフへ。北アイルランドを相手に2試合合計1−0で勝ち、際どく予選を突破した。ロシア行きを決めたリカルド・ロドリゲスによる1点は、物議を醸したPKのゴールだった。しかし、若いチームが勢いに乗ると止まらない。欧州予選の序盤は上々のパフォーマンを発揮し、9連勝を飾った。守備はよく組織されており、やすやすと崩れない。大国から勝利をもぎとるしぶとさがある。「集団としてのスピリットと結果を求めるどん欲さはピカイチ」と知将は自信をにじませる。ヨハン・ジュルーとファビアン・シェアのCBコンビの背後には頼れるGKヤン・ゾマーも控えている。
それでも、堅守だけが売りのチームではない。背丈は低いが、チャンスメーカーのジェルダン・シャキリの実力は紛れもなく欧州トップクラス。5人が並ぶ中盤を支えるブレリム・ジェマイリは、大胆な飛び出しでチャンスを作る能力を持つ。ロドリゲスとシュテファン・リヒトシュタイナーは両サイドからダイナミックに駆け上がり、効果的な攻撃を繰り出す。FWが効率よくゴールネットを揺らせば、厳しいグループEを抜け出す確率も高まるはずだ。チーム浮沈のカギは、1トップを務めるハリス・セフェロビッチが握っている。
文◎クライブ・バッティ 翻訳◎山中 忍
コスタリカ
前回大会は戦前の予想を覆す快進撃を見せたコスタリカ。レアル・マドリードで活躍する守護神ナバスは健在だ(写真◎Getty Images)
熟練のコンビネーションで大国に挑む
4年前、世界を驚かせたのは記憶に新しい。元世界王者のウルグアイ、イタリア、イングランドが同居した「死のグループ」を首位で突破。決勝トーナメントに進むと、元欧州王者ギリシャもPK戦で下し、ベスト8まで進んだ。今回もその再現を狙う。
ラミレス監督が作り上げた新チームの土台は「良かったところはそのまま残す」だ。フォーメーションはブラジル大会で機能した5-4-1。主力は前大会2得点のブライアン・ルイスをはじめ、クリスチャン・ボラーニョス、セルソ・ボルヘス、ジョニー・アコスタ、ジャンカルロ・ゴンサレス、ケイラー・ナバスのまま。これが選手間の意思疎通や連係をスムーズにしている。指揮官は01年に(最初はフィジカルコーチとして)監督キャリアをスタートさせてから、国内のタレントの成長をつぶさに観察しており、選手たちの特徴をくまなく把握している。
心配なのは主力の高齢化だ。前述の6人はチームに多くのプラスをもたらしているが、全員が30歳を超えており、試合間隔が短い大会ではパフォーマンスに波が生じるかもしれない。負傷する可能性も高い。コパ・アメリカやコパ・セントロアメリカーナ、ゴールドカップを経験しているがW杯は別物だ。
本番に向けて求められるのは、まず選手のコンディションを管理すること。その上でコンセプトどおり堅守猛攻のサッカーができるかどうかがカギ。場数を踏んだ守備陣を中心にコンパクトなブロックを築き、ボールを奪ったら素早く人数をかけて敵ゴールへまっしぐら。それができれば、再び道は開けるかもしれない。
文◎横井伸幸
セルビア
194センチのマティッチら、長身のタレントがそろうセルビア。ダークホース候補のひとつだ(写真◎Getty Images)
躍進のカギは若手とベテランの融合
セルビアとしては2度目のW杯出場。オーストリア、アイルランド、2年前のEUROで4強入りしたウェールズとグループで同居した予選は決して楽ではなかった。挙げ句の果てには、突破を決めたスラボリュブ・ムスリンが監督の任を解かれる始末。チームパフォーマンスが振るわなかったことに加え、「黄金時代」と呼ばれる15年U-20W杯優勝チームの主役で、ラツィオのプレーメーカーに成長しているセルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチを無視した采配が致命傷となった。
後任となった元代表DFのクルスタイッチ新監督は、ブラニスラフ・イバノビッチ、アレクサンダル・コラロフ、アントニオ・ルカビナ、ブラジミール・ストイコビッチといった歴戦の勇士への信頼を貫くと同時に、若手登用の勇気も見せた。新たな4-2-3-1システムの採用も奏功し、今年3月の親善試合ではナイジェリアを下した(2-0)。得点はいずれもアレクサンダル・ミトロビッチ。ドゥシャン・タディッチ、アデム・リャイッチ、フィリプ・コスティッチによる2列目からの厚いサポートを受け、短気な1トップは孤立していら立つこともなかった。
攻守の要はチームの心臓となるMFネマニャ・マティッチだ。相棒のルカ・ミリボイェビッチは最終ラインの前でどっしりと構えており、全体のバランスを取っている。加齢に伴う機動力の低下を隠せない4バックに一抹の不安はあるが、腹の据わった指揮官は大胆な手を打つはず。若い力をピッチに送り出すことをためらわなければ、穴らしい穴はなくなる。そのとき、怖いもの知らずの勢いと百戦錬磨の落ち着きがブレンドされ、決勝トーナメント進出は現実的になる。
文◎クライブ・バッティ 翻訳◎山中 忍