黒子から攻守の要へ
2000年、鹿島アントラーズは史上初の3冠という偉業を成し遂げた。ビスマルク、柳沢敦、鈴木隆行、小笠原満男ら、そうそうたる顔ぶれが並ぶなか、中盤を献身的に走り回り、黒子としてスター選手を輝かせ続けた背番号18がいた。現鹿島ユース監督の熊谷浩二だ。
その年、アントラーズのホームタウンの一つである神栖市で生まれた小沼樹輝は、小学4年生のときに鹿島ジュニアに加入し、それから鹿島一筋で成長を重ねてきた。高校生となり、鹿島ユースでは1年生からレギュラーに抜擢され、昨年の高円宮杯プレミアリーグでは18試合中10試合に先発出場した。
今年度も2年生ながら、チームの大黒柱として活躍している。チームでただ一人、プレミアリーグで全試合フルタイム出場を果たした。
そんな小沼も、黒子だ。「自分は決して力がある選手ではない。チームが勝つために走ること、仲間を助けるプレー、声を出すこと。そういうところで、チームのために100%の力を常に出すことを意識している」と、自らのプレースタイルを説明する言葉からも、謙虚さが伝わってくる。
試合中も、目立つプレーはほとんどない。だが、確実に、堅実に、前述のような自らの役割をこなしている。その姿は、17年前に栄光をつかんだ熊谷監督の現役時代を想起させる。ただの偶然か、小沼がユースで1年生から背負う番号も「18」なのだから、なおさらだ。00年の話題を振ると、「そんなに背番号は意識していないけれど、自分が生まれた年に鹿島が3冠を取ったのは知っているし、そのときの18番は、熊谷監督だったんですよね」と、返事にも力がこもる。
ただ、いつまでも謙虚に、黒子のプレーだけに徹しているわけにはいかない。「昨年度は1年生だったので、目立たなくてもチームのためにやることが大事だった。2年生になったので、それだけじゃなくて、チームの状況を見て声をかけたり、攻撃のところでも、ボールを落ち着かせたりすることを、意識している。もっとやっていかなければいけない」。そう口にする表情には、物足りなさも浮かぶ。
「ボランチだったら、レオ・シルバみたいにすごく走って、ボールを奪って、というように、運動量を多くすることは、勝つためには絶対にやらなければいけないこと。それに加え、攻撃にも絡める力をつけていかなければいけない。ボランチとして、攻撃も守備も、どちらもできるようになりたい」
実際に現役時代の熊谷監督は、3冠を獲得した00年シーズンにはリーグ戦と天皇杯で得点も決めている。小沼にはまだ、高円宮杯プレミアリーグの舞台で、ゴールという結果がない。
「勝ち切る強さを手に入れたい」
かつて栄光をつかみ取った恩師のように、来季はチームを勝利に導くボランチを目指す。2018年度は、自身の成長と、真価が問われる1年となる。
取材◎小林康幸
小沼樹輝[MF/鹿島アントラーズユース/2年]
おぬま・たつき/2000年5月26日生まれ、茨城県出身。小学生から鹿島の下部組織で成長。2017年度は下級生ながらチームで唯一、全試合フル出場した。173cm、66kg