Uー17日本代表は26日、タイで開催中の『AFC U17アジアカップ2023』準々決勝でオーストラリアと対戦し、3-1で快勝。勝てば、U-17ワールドカップ出場権を獲得する重要な試合にきっちり勝ち切り、世界大会行きを決めた。その一戦に選手たちはどんな思いで臨んでいたのか、そして勝利をつかんだ今、どんな心境でいるのか。現地取材を続ける川端暁彦氏がリポートする。

上写真=オーストラリア戦直後はW杯出場決定を喜んだ選手たちだが、すでに次戦に向けて気持ちを切り替えている(写真◎Getty Images)

狙い通りに相手をのみ込んだ豪州戦

 AFC U17アジアカップ準々決勝。「勝てば世界大会」というわかりやすいターゲットがあるがゆえに異様なプレッシャーも掛かるこの一戦で、日本の高校生たちはたくましく輝いた。

 前半は、ほぼ狙いどおりと言っていい内容だった。

「オーストラリアは15分から20分くらいまでの勢いが凄いという分析で、『逆に自分たちが立ち上がりにのみ込んでしまえ』という話だった」

 FW名和田我空(神村学園高)がそう話したように、最初の勝負の肝は試合の入りにあった。先手必勝のアグレッシブな攻勢が実り、10分に名和田がロングスローのこぼれ球を抜け目なく押し込むと、23分にはDF永野修都(FC東京U-18)のロングフィードで相手のサイド裏へと抜け出したMF吉永夢希(神村学園高)のラストパスからFW道脇豊(熊本)が2点目のゴール。まさに「のみ込んだ」形となった。

 より理想を言えば、ここでさらにもう1点奪い切っていれば、試合も決まったかもしれない。森山佳郎監督はこう振り返る。

「前半から集中力高く戦って、かなり飛ばす形になってはいた。守備も集中力高く、縦ズレ、横ズレのスライドをしっかりしてくれていた。ただ、その分だけ足も使っていた」

 出場停止の選手がいた影響もあり、中盤から前の構成がいつもと違う並びになっていたオーストラリアの攻撃は、ほぼ封殺。DF本多康太郎(湘南U-18)も、「相手はこうだからこうしようとか映像を観ながら話し合ってきたことがしっかり出せていた」と手応えを語る好内容だった。

 ただ、やはりオーストラリアはそのまま沈むようなチームではなかった。欧州ビッグクラブへの移籍も濃厚なFWイランクンダはセンターフォワードに入った前半は単発プレーで目立つシーンがあったのみだが、得意の右FWへ移った後半は日本に牙をむいてきた。62分にはそのイランクンダが日本の守備を突き破り、日本の選手たちも舌を巻いた見事なゴールを流し込む。

 日本のサッカー界には「2-0は危険なスコア」という少々奇妙な格言が存在しているが、その心は「1点差になったら焦るから危ない」というもの。だが、この日の選手たちは逞しかった。

「自分のマークでやられてしまったけど、そのあとは改善して対応できた」とDF小杉啓太(湘南U-18)が胸を張って振り返ったように、そのまま心理面からチームが崩れるようなこともなく、粘り強く対応。ベンチからフレッシュな選手が“援軍”として送り込まれると、逆襲の一撃まで入れてみせた。

 交代でピッチに入ったMF矢田龍之介(清水ユース)が起点となり、MF佐藤龍之介(FC東京U-18)の見事なスルーパスを引き出すと、抜け出したのはこちらも交代出場のFW高岡伶颯(日章学園高)。グループステージではチャンスを逃し続け、「本当に悔しかった」と言うストライカーは、しかしこのときは冷静だった。

「『自分が決めるんだ』と思って佐藤の名前をめっちゃ呼んでパスをもらって、そのあとは今までと違って冷静になれた。『ああいうときこそ力を抜いて冷静になったほうがいい』とグループステージで色々な方から言ってもらっていたので、それを生かせた」(高岡)

 巧みな切り返しで飛び出したGKとカバーに入ったDFを外し、落ちついてゴールへと流し込む。「あれが本当に大きかった」と監督とチームメイトが口を揃えた一発で試合の空気も一変した。

次戦は29日、強豪イランと激突

 その後も冷静に対応。たとえば、88分の場面などは印象的だ。小杉が相手のファウルで倒されると、「相手にイエロー出たから寝てて大丈夫だぞ」といった声がすぐに味方から飛ぶ。イエローカードが出るようなファウルでダメージを負った場合、担架で外に出されることなく回復まで待ってもらえることを把握した上での声で、肉体的には消耗しながらも、頭はクールだった。

 そのまま試合は終幕。3-1の快勝で見事に今年11月にインドネシアで開催予定のU-17ワールドカップ出場権を勝ち取ってみせた。

 とはいえ、「目標はあくまで優勝なので」と指揮官が言えば、激闘を終えたばかりのキャプテン小杉も「優勝に向かってみんなもう切り替えている。もう一度引き締めていきたい」と、その視線を準決勝へと向けていた。

 その準決勝は中2日で迎える29日に開催される。相手のイランは中3日と日程面ではやや不利になるが、「優勝することを考えて時間をシェアしてきた」森山監督にとっては織り込み済みの要素でもある。準決勝では消耗の激しいメンバーを入れ替えつつ、勝ち切りたい考えだ。

 イランは各年代の日本代表と幾多の激戦を重ねてきたアジアの強豪。このチームにとっては昨年8月にウズベキスタンで行われた親善大会「ミラブロル・ウスマノフ・メモリアルカップ」で対戦して1-3で敗れており、「借りを返さないといけない」(小杉)相手でもある。

「アジアチャンピオンになって世界へ行くぞ」

 再三にわたって指揮官が強調してきた目標へ向かって、あと二つ勝利を積み上げにいく。

取材・文◎川端暁彦


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